『神様ゲーム』(☆4.0) 著者:麻耶雄嵩

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小学四年生の芳雄の住む神降市で、連続して残酷で意味ありげな猫殺害事件が発生。芳雄は同級生と結成した探偵団で犯人捜しをはじめることにした。そんな時、転校してきたばかりのクラスメイト鈴木君に、「ぼくは神様なんだ。猫殺しの犯人も知っているよ。」と明かされる。大嘘つき?それとも何かのゲーム?数日後、芳雄たちは探偵団の本部として使っていた古い屋敷で死体を発見する。猫殺し犯がついに殺人を?芳雄は「神様」に真実を教えてほしいと頼むのだが・・・。 


Amazon紹介より

 

今回は思いっきりネタバレを含んでますのでお気をつけて下さい。

 先に直接的な感想と採点を。面白かったです、ホント。あらためて麻耶さんの器用さというか、実力を感じさせてくれました。
 これがジュブナイルとしてどうなんだとは思いますし、このシリーズを評価する際にその部分をそれなりに重要視してるんですが、それを差し引いても有無を言わせない何かをこの小説に感じちゃいました。というか、麻耶さんに依頼する時点でノーマルなジュブナイルを求めるのが間違ってます。(とはいっても、まさか編集者もこうくるとは思わなかったでしょうけど。)
 ラストの衝撃の結末まで含めて、まさに麻耶節炸裂。お父さんお母さん、読ませる前に読んでください。未読のまま読ませるには危険すぎます。

 

さてさて詳細な感想ですが、麻耶さん、またやっちゃいましたね~。
『夏と冬の奏鳴曲』と較べてと、問題作という意味ではまったく見劣りしませんね。
文体は見事にジュブナイルしてるのに、書いてる内容はPTAも悶絶です。
まず使ってる単語がやばいです。

例を挙げると主人公の今年の誕生日プレゼントは、ラビレンジャーのジェノサイドロボですが、

ラビ・・・・・・・宗教的指導者
ジェノサイド・・・一つの人種・民族・国家・宗教などの構成員に対する計画的大虐殺

・・・おいおい、ちなみに去年はタクラマカン5のネクロフィリアロボですが

タクラマカン・・・・中国にある砂漠
ネクロフィリア・・・死姦

一体どんな番組の玩具やねん!!この他にも宗教やラテン語から派生した単語がもりだくさんです。

それはおいてといて、問題は自らを神とのたまう「鈴木太郎」君です。彼はなんでも知っています。
だって神なんですから。
これを肯定するかしないかで、この本の内容に見方が変わる訳ですが、僕は鈴木くん=神である事を全肯定して読みました。じゃないと説明つかないことが多いし、それになによりも

だって麻耶さんですよ。

いってしまえば、メルカトル鮎だって神みたいなもんじゃないですか。
「だって麻耶さんだもん」・・・ファンにはなんて説得力ある言葉なんでしょう。

もう一度。これ以降おもいきりネタバレを含んでますのでお気をつけて下さい。


で、猫事件を追っていた浜田探偵団はクラスメイト英樹の死体を発見しちゃいます。
結局事故で片付けられた英樹の死の真相を突き止めようとする浜田探偵団も行き詰ってしまいます。
そして、ついに主人公芳雄君は“神様”鈴木君に殺害犯に天誅を食らわす訳ですが、死んだのは一緒に死体を発見したはずの片思いの相手、ミチルちゃんでした。
予想外の犯人に、芳雄君は事件に共犯者がいて、その共犯者こそ刑事である自分の父親だと確信します。ミチルと父親は肉体関係にあり、それを見られた為に英樹を殺したと。

はい、僕もそう推理しました。だって死体発見時のミチルちゃんの行動があまりに怪しいし、そのあと息子の電話を受けた父親の対応も普通に考えたらおかしいですから。
ここで芳雄君は共犯者にも天罰を与えるよう鈴木君にお願いします。
いよいよ犯人に天罰が下ります。犯人めがけてローソクの火が・・・

燃えたのは母親!!

え~~~~~~~~~~~!!なんじゃそりゃ!!しかも母親が燃えて小説は終わり。
あまりに唐突すぎます。もうほとんど理解不能です。
母親が共犯者だとすると、一体どうやって裏庭の密室から脱出したの?
一応芳雄君の推理の一つに、犯人はタライの中に隠れていたという説があったんですが、確かにいろんな箇所で母親が小柄だという描写があります。
でも、小学5年生でも比較的小柄な芳雄君ですらぎりぎりになのに母親は同じくらい小さいんですか?確かにありえなくはないんですけど、何だかイビツな空気が・・。
ということは、母親とミチルが肉体関係?おいおいおいおい・・・・ジュブナイルにはありえないアブノーマルさです。

前半鈴木君の御宣託の中に、担任の女性教師が同僚教師に酔っ払った際に無理やり肉体関係を持たされ、いまだにその関係を引きずっている、というかなり唐突かつそれ以降一切事件に絡んでこないものがありましたが、これは事件の動機にはアブノーマルな関係が関わっている、という伏線だったんでしょうか?

とすると、父親の謎の対応は?実はミチルと母親の関係を知っていて、事件を知りその真相を悟って隠蔽しようとしたのか?それとも、母親から電話でもあったのか???
そして殺人事件以降まったく影の薄くなった猫殺しは本当に殺人事件に関係なかったのか。
もういろいろな可能性が浮かんでは消え、そして答えはまったく得られません。

そして、自分の死すら予告された芳雄君はこれからどんな人生を歩むんでしょう。
だって逆に言えば、なにをしても死なない訳ですから、ある意味なんでもし放題です。
とにかく、いろいろな謎を残したまま読者を放り出してくれました。
でもしょうがありません。

だって、麻耶さんだもん!!

(2006.5.18 ブログ再録)