たいりょうのちょっと一息

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『一の悲劇』( ☆4.3) 著者:法月綸太郎

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「あなたが茂を殺したのよ」広告代理店局長の山倉史朗は、狂乱した冨沢路子の前で絶句した―。路子の一人息子茂が誘拐されたのだが、脅迫は、なぜか山倉に向けられていた。犯人は山倉の息子隆史と、近くに住む同級生の茂を間違えて誘拐したらしい。密かに布かれた警察の監視網の中、山倉は身代金六千万円を持って、人質の茂を引き取りに、指定された場所へ向かった。が、犯人との接触に失敗し、翌日、茂は死体となって発見されたのだ。誰が?こんな残酷なことを?やがて浮かんだ容疑者三浦には、アリバイがあった。犯行当日、名探偵にして作家の法月綸太郎と一緒にいた、というのだ…。本格ミステリ界期待の新鋭が贈る、驚愕のドンデン返し。
Amazon紹介より
 

名探偵法月綸太郎祥伝社に初登場です。
とはいっても、この作品は山倉史朗の一人称視点で描かれる為、綸太郎は要所要所にか登場しませんが。

誘拐小説の中で、対象の取り違えというジャンルはそれなりに見かけます。エド・マクベインの原作を黒澤明監督が映画化した『天国と地獄』なんかも、その代表作の一つです。そんなテーマを、著者は緻密なプロットでぐいぐい読ませます。
二転三転する事件の構造、登場人物の一人一人がそれぞれにトラウマと秘密を抱え、それゆえに複雑な糸に操られるように、悲劇にむかっていく様子は、法月作品の中でも屈指の構築美を誇ってますね。

とにかく、意外な犯人と動機の異常さは、『頼子のため』『ふたたび赤い悪夢』などに通じる、作者特有の家族の悲劇として強烈に印象に残るし、事件の結末もかなり救いのない事になってますが、ラスト1ページで登場人物に光を与える姿は、クイーン中期の諸作品を彷彿とさせます。

まだまだ方向性を試行錯誤中と語っている作者ですが、少しづつそれが見えてきたというか、間違いなく代表作の一つに数えていい作品でしょう、これは。

 

(2005.10.24 ブログ再録)