『頼子のために』(☆4.8) 著者:法月綸太郎

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「頼子が死んだ」。17歳の愛娘を殺された父親は、通り魔事件で片づけようとする警察に疑念を抱き、ひそかに犯人をつきとめて相手を刺殺、自らは死を選ぶ──という手記を残していた。手記を読んだ名探偵法月綸太郎が、事件の真相解明にのりだすと、やがて驚愕の展開が!精緻構成が冴える野心作。

Amazon紹介より

 

名探偵法月綸太郎が後期エラリィモードに突入します。
これは、法月作品だけではなく、ミステリの中でも個人的偏愛度No1の作品なんですね~♪
えーと、『ニコラス・ブレイクの主題によるロス・マクドナルドの変奏曲』とか紹介されてますが(逆だったかな)、これは要するに「復讐」と「家族の問題」という事ですかね。
でも、読んで思い浮かんだのは、クイーンの『十日間の不思議』でしたが・・・。
シリーズ3作目、デビュー作から数えると4作目になるこの作品で、法月さんは新本格の中で確固たる地位を獲得したと、勝手に思ってます。

前半の娘を殺された父親の復讐にいたる手記から、後半の二転三転する事件の風景。その中で見え隠れする権力との争い。
物語そのものには、派手なトリックがあるわけでもありません。また、叙述トリックもあるわけではありません(一応使われてはいるんですが、一般的には叙述と認識されないでしょう)。ストーリーの展開も地味な捜査の連続で派手さはありません。

この小説のメインは、登場人物のそれぞれの心象風景が交錯する事によっておきてしまった悲劇です。初期の新本格について回った登場人物のリアルさの希薄性(これ以前の著者の作品にも見受けられますが)、この作品では一掃されています。この頃の新本格でここまで捨てキャラがいないのも、珍しいのではないでしょうか。
というより、それぞれの登場人物がきちんと描かれているからこそ、ラストの絶望的な結末で、読者は探偵法月綸太郎が突きつけられた現実をリアルに受け止められるんじゃないでしょうか。

事件の背景にある心の闇をどう受け止めるかで、作品の印象はかわると思います。僕は衝撃的でした。こんなに絶望的な結末があるんだと。
初読当時(高校生の頃)は、あまりの衝撃にしばらくミステリ読めなかったもんなあ~。今思うと、ほんとに感受性が強かった(笑)。
これ以降、あまりに寡作な著者の作品を待ち続ける日々が、今も続いています。

余談ですが、ちょっとしたご縁でこの小説にサインを頂くことができました。それは今でも大切にしまってあります。
あと、いくらバンドやってても、なかなか「ジョイ・ディヴィジョン」は聞かないと思うぞ~。

(2005.11.9 ブログ再録)