『探偵が早すぎる (下)』(☆3.7)  著者;井上真偽

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「俺はまだ、トリックを仕掛けてすらいないんだぞ!?」

 完全犯罪を企み、実行する前に、探偵に見抜かれてしまった犯人の悲鳴が響く。父から莫大な遺産を相続した女子高生の一華。四十九日の法要で、彼女を暗殺するチャンスは、寺での読経時、墓での納骨時、ホテルでの会食時の三回! 犯人たちは、今度こそ彼女を亡き者にできるのか!?
 百花繚乱の完全犯罪トリックvs.事件を起こさせない探偵!


Amazonより

「事件が起きる前にすべてを見破り事件を起こさせない」というメタ探偵の下巻。

 上巻はこの特殊な設定を読者に理解させる前哨戦だったのか、この下巻は上巻に比べてかなりのテンポアップ。上巻でプロの殺し屋(?)がまんまと探偵側に嵌められてゲームオーバーになったので、下巻はもっとスーパーな奴らが登場するかと思ったら、どちらかというと質より量、お金だけは有り余ってる金持ち一家の金満パワー炸裂です。

 あまりに刺客の量が過多なので、刺客のキャラ(バックボーン)は薄め、金持ち一家のキャラ濃いめで対応。人間金持ちになるとここまでおかしくなるのか、あるいは元々おかしい一家なのか、いやいや単に小説的、というよりマンガ的デフォルメ。別に悪い意味ではなく、どこかで見たことあるようなキャラが悪事を画策し、そして片っ端から叩き潰される姿は、まさに安定のお約束で、ある意味なにも考えずにその非現実的な世界を堪能できるといえるのかもしれません。

 そんなマンガ的設定は探偵・千曲川と家政婦(兼執事?)の過去の関係に最も象徴されるのかも。なぜ千曲川はすべての謎を解き明かす事ができるのか、そして橋田はなぜ千曲川と親しいのか、すべての事件が終わったあとに明かされるその真相こそ、ある意味それまでのどの事件や刺客達よりも非現実的デフォルメ感にあふれてます。
 上巻こそまだミステリとしての見せ方が強かったけれど、この作品の作風からすれば、それよりも単純にこのハチャメチャな世界観を表現しているこの下巻の方が、この小説の方向性に合っていると思う。

 さてさて、ミステリとして考えるとどうしても特殊なタイプになるので、この独特の世界観もそのミステリを成立する為に作られた感が強いです。特に下巻はその傾向が強くなっていて、上巻には垣間見えた読者でも解けるかも的なヒントも殆どなくなってるので、ミステリ的な驚きを楽しみたいという人には、ちょっと物足りないかもしれないですね。

 ただ、「その可能性はすでに考えた」と同様にアンチミステリ的なメタ理論を用いながらも、ミステリの可能性を感じさせてくれる井上さんの作風が好きな人にはなんだかんだといって楽しめるだろうし、ミステリとしての完成度はともかく井上作品の窓口としては読みやすいしオススメなんじゃないだろうか。



採点  ☆3.7