『探偵が早すぎる (上)』(☆3.2)  著者;井上真偽

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『その可能性はすでに考えた』の著者が仕掛ける究極の逆転劇!

父の死により莫大な遺産を相続した女子高生の一華。その遺産を狙い、一族は彼女を事故に見せかけ殺害しようと試みる。一華が唯一信頼する使用人の橋田は、命を救うためにある人物を雇った。
それは事件が起こる前にトリックを看破、犯人(未遂)を特定してしまう究極の探偵! 完全犯罪かと思われた計画はなぜ露見した!?
史上最速で事件を解決、探偵が「人を殺させない」ミステリ誕生!

Amazonより

『その可能性はすでに考えた』で、全ての可能性を否定し奇蹟を証明しようとする一風変わった探偵を描いた著者、今度は事件が起きる前にすべてを見破り事件を起こさせないというメタ探偵に挑戦です。

 事件が起こる前に事件を解決する・・・いってしまえば究極の探偵ですが、近年の日本ミステリの世界で似たような探偵と思い浮かべると、清涼院流水の『JDCシリーズ』に登場する九十九十九を思い出しました^^;;

 九十九十九は、必要なデータが揃えば推理することなく真相が分かってしまう(だったはず)という究極のメタ探偵、推理の過程すら必要なく、ただ真相が分かってしまうのだから間違えないトンデモ探偵でしたが、この作品に登場する探偵は、なぜ真相を看破できたかちゃんと語ってくれますでの、そこだけは一安心。

 莫大な財産の相続人となった少女、その少女に付き添うちょっとツンデレ系(ツンツン系?)な秘書、財産を奪う為に少女の命を消そうとする多すぎる親族(みんな残酷思想ばっちり)。そこだけ考えるとキャラ萌え系な作品になりそう(実際に表紙はそれを狙っているような・・)なもんですが、意外と印象に残りません。

 その理由としては少女の命を狙う親族たちが、自ら手を汚そうとせず下々(?)の物を手駒に使って犯行を行おうとするので、実際には実行犯VS探偵の場面が殆どだからかもしれませんね。
 実行犯も親族軍団の関係者だけでなく見ず知らずのオッサンや子どもまで使われてて、親族軍団の鬼畜っぷりが際立ちますが、それに対抗する探偵もエグい。

 探偵の二つ名は「トリック返し」、親族軍団の刺客達が使おうとしたトリックを使ってきっちりお仕置きします。犯行に自覚的な刺客には直接、無自覚な刺客には雇い主とそれなりにポリシーもあったりなんかして、下巻になるとこの探偵の個性ももっと際立っていくんでしょうか。
 トリックそのものは、そんなに凄いっていうインパクトはないですが、この小説自体がいかに犯行を見破ったかに主眼が置かれてるので、それは瑕疵とはいえないと思います。探偵の見破り方も、納得がいくかどうかは正直微妙なところもありますが、作品全体のライトな雰囲気からすれば及第点なのかな。

 まだ上巻だけですが、『その可能性はすでに考えた』ほどのこってり感はないですけど、著者の一風変わった作風の入り口としては読みやすい作品だと思います。

 



採点  ☆3.2