『くうきにんげん』(☆3.7)  著者;綾辻行人

イメージ 1

綾辻行人と牧野千穂が、見えない魔物を描きだす― 

「くうきにんげん」を知っているかい?
誰も気づいていないけど、世界中にたくさんいるんだよ。
普通の人間におそいかかって、空気に変えてしまうのさ。


―ほら、君のそばにも。
Amazonより

 岩崎書店の「怪談えほん」シリーズの一冊で、綾辻行人作、牧野千穂作画。

 ランドセルを背負った主人公らしき存在。背負っているランドセルが赤なので、おそらく小学生の少女。ただし身体は人間だけれど頭部分はうさぎという不思議なキャラクター。これは違う世界の話だよ、って雰囲気ですが、パステルタッチの牧野さんの挿絵が現実とも空想とも取れるような不思議な空気を醸し出してます、

 そんなすこし不思議な世界の物語、とはいってもそこは絵本、決して難しいことは言わず、くうきにんげんの世界をわかりやすくモノローグ調の文章で説明してくれます。学校の図書室、帰り道、団地の外、そして家の中、囁くような語り口が不安感をとっても煽ってくれちゃいます。

 怪談のかたちとして、日常生活の中にじわりと染み込んでくる違和感に端を発するパターンが定形の一つだと思います。一件ストレートな驚かし系のようなお化け屋敷でも、屋敷全体の出るぞ出るぞ感が大切な訳で、ただびっくりさせられるだけならお化け屋敷ではないと思うのです。
 そういった意味で、この本は間違いなく「怪談えほん」。

 そして、最後の語りが終わる場面。それまでは深泥丘奇談や囁きシリーズに代表されるような、怪談(ホラー)作家としての綾辻さんだったのが、この場面でミステリ作家としての綾辻さんがちょっとだけ登場。別に大きなどんでん返しがあるというわけではないですが、最後にこの言葉をチョイスするところが、いかにも綾辻さんって感じで好きです。

 あらためて読み返してみると、くうきにんげんの世界が現実の大人社会の比喩ともとれるようなきがするのですが、一方で最初の図書室の場面から仕掛けはあったりするところなんかは、単純な比喩だけじゃなくて、やっぱりこれも怪談なんだよ、と綾辻さんが語りかけてくれるようでした。

 とりあえず、子どもが読んでも大人が読んでも、ちょっと怖い絵本に仕上がってると思います^^



採点  ☆3.7