『QJKJQ』(☆4.1) 著者:佐藤究

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まずはあらすじ。

 市野亜李亜(いちのありあ)は十七歳の女子高生。猟奇殺人鬼の一家で育ち、彼女自身もスタッグナイフで人を刺し殺す。
 猟奇殺人の秘密を共有しながら一家はひっそりと暮らしていたが、ある日、亜李亜は部屋で惨殺された兄を発見する。その直後、母の姿も消える。亜李亜は残った父に疑いの目を向けるが、一家には更なる秘密があった。

「平成のドグラ・マグラ」(有栖川有栖)
「殺人そのものを突き詰めることっで、人間を見つめている。脱帽だ。」(今野敏)

選考委員たちにそう言わしめた、第62回江戸川乱歩賞受賞作。
Amazon用あらすじより

 いかにもスプラッタ系のようなあらすじに、帯の熱烈(?)な賛辞。外したらとんでもなく外しそうな雰囲気がプンプンするけれども、一方で賛辞を送った方々が方々なだけに、期待半分不安半分で読む。

 プロローグ的な部分を読んで、いきなり不安が大きくなる。何かビデオで撮影したものらしい映像の世界。読んでてさっぱり意味がわからない。短いけれど頭に入ってこないし、これは外したかな?といきなり不安に。

 プロローグに続く本編のパートからは、亜李亜の視点で物語は進む。自分を含む市野家のそれぞれの紹介。亜李亜の凶器は鹿の骨から削りだしたナイフ。引きこもりの兄の凶器は口に入れた犬の牙のようなマウスピース。どこか存在感の薄い母親はシャフト。そして何より父親は被害者からチューブを使って少しづつ血液を抜き、その血液をパイプを使って、被害者本人に飲ませるというとんでもなく素敵な殺人方法。そしてどんな一家だ^^;;

 どれもこれもなんだかもう読んでて憂鬱になりそうですが、文章がプロローグと打って変わって読みにくさはなくなりました。粗筋だけ読むと、スプラッタ描写命な小説かなと思ったのですが、そんな事もなく、一つの文節が割りと短かめで、なおかつ言葉選びにも気を配っていて、文章のリズムがいい感じ。文章はかなり巧いと思います。とりあえず文章が下手で読むのが・・・と云うことは無いかなと。

 そんな殺人一家のうち、長男が自宅で惨殺されてるのを長女が発見。すでに帰宅していた父親と共に再度死体のあった「殺人部屋」(母、長男専用の連れ込み部屋)を訪れると、死体も痕跡も跡形もなく消えてしまっていた。「狩る者」が「狩られる物」へ、混乱する亜李亜、さらには母親も姿を消して・・・崩れゆく日常の風景の中、事件の謎を調べる亜李亜の中に湧き上がる微妙な違和感。
 実にミステリらしい引き、物語のキーとなるエピソードの出し方も上手く、この先どうなるんだろうとワクワクしました。そう、ここまでは・・・。

 徐々に真相が明らかになってくる後半、まさかこんな展開になるとは思いませんでした。後半もある意味熱量は凄いですけど、前半とベクトルの方向が違うというか、ある意味トンデモな展開にはなります。なりますが、そこに関してもきちんと伏線は張ってるし、訳のわからんプロローグも活きてくる。何故このタイトルなのかという理由も奮ってます。後半は何を語ってもネタバレになるのであれでうが、いやぁ、計算されてますな。

 前後半のテンションの違い、設定や小道具の使い方にストーリー展開ありきな所はありますが、それをうまく纏めきっているところはしっかりとした実力を感じます。でも、さすがに『平成のドグラ・マグラ』は言いすぎかなぁ〜。今野さんの評価にはなんか納得しますが・・・とも思ったのですが、結局この小説はミステリの枠組みを借りた純文学寄りの作品。ある殺人犯に関する件は、ある意味アンチ・ミステリ的な要素もあるし、そういった意味ではアンチ・ミステリとしての『ドグラ・マグラ』はもしかしたら間違じゃないのかなぁ。

 後半の展開で好き嫌いが分かれるとは思いますが、映画『◯◯◯◯◯』(ホラー映画)が好きだった自分としては楽しめたし、年末のベストテンでは台風の目になるかも。
今後も期待したいなぁ〜、と思います。 




採点  ☆4.1