『ワイルドバンチ』  監督:サム・ペキンパー

イメージ 1

あらすじ

 バイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパー監督が、20世紀初頭のメキシコを舞台に滅びゆくアウトローたちの姿を描いた傑作西部劇。1913年、アメリカ・テキサスでの銀行強盗に失敗したパイクら強盗団はメキシコに逃走する。旧友ソーントンら賞金稼ぎに追われる中、メキシコ政府のマパッチ将軍の依頼で米軍用列車から武器を強奪するパイクたちだったが、マパッチの裏切りに遭い、仲間を人質に取られてしまう……。

パイク・ビショップ	      ウィリアム・ホールデン
ダッチ・エングストローム  	アーネスト・ボーグナイン	
デケ・ソーントン	      ロバート・ライアン	
フレディ・サイクス     	エドモンド・オブライエン	
ライル・ゴーチ	      ウォーレン・オーツ	
テクター・ゴーチ	      ベン・ジョンソン	
エンジェル	         ジェイミー(ハイメ)・サンチェス	

 広島の映画興行会社「序破急」が企画した「ワーナー・ブラザース MGM映画 クラシックス特集」の上映作品。この映画も初見。大学時代に所属していた映画研究会の友人が大絶賛してたなぁ、と思い劇場へ。そういえば西部劇自体も、「荒野の用心棒」のリメイクでブルース・ウィルスが主演したやつぐらいしか見てない気がします。

 冒頭から、画面に漂う古き時代のアメリカの熱気。騎兵隊の制服を来た男たちが馬にまたがり街に登場。その傍らでは無数の蟻にサソリを襲わせている無邪気な子供たち。さらには禁酒会の集まりに集う集団。ビルの上には銃を抱えた男たち。そんな風景の中で挿入されるストップモーションでのキャスト・スタッフ紹介。カッコ良すぎです。
 そんな中、鉄道管理事務所に入った騎兵達がいきなり襲撃を開始。どうやら偽の騎兵隊に扮したお尋ね者だということが分かる。そんな彼らの襲撃を迎え撃つかのようにビルの屋上にいた男たちが銃撃を開始。強盗対ビルの男たちの過激なまでの銃撃戦、飛び交う血しぶきと積み重なる死体達、その中を逃げ惑う街の人々の姿、が素晴らしいカットワークで描かれる。

 襲撃に失敗し退却したパイク率いる強盗団。強盗団の死体や流れ弾で死亡した町の人々の死体から金目の物を剥ぎ取るビルにいた男達。この場面で、彼らが街の自警団などではなく元犯罪者の賞金稼ぎだということが観客にも分かってくる。しょっぱなからどちらが正義でどちらが悪なのか、分からない。

 この映画にはヒロイズム溢れたアウトローも、逞しく生きる民衆も登場しない。むしろ、時代に取り残されつつありながら、なおそんな生き方しか出来ない男達の悲哀が色濃く表現されている。パイク率いる強盗団は女や金を求めて刹那的に生きているが、彼らが一体何を本当に欲しているかは分からない。もしかしたら、彼ら自身も分からなかったのかもしれない。
 それは追う側でもあるソーントンもまたしかり。元々パイクの仲間でありながら、今は追う立場の彼もまた、映画の中ではパイクを仕留める事に執念を見せるが、なぜそこまでして彼らを狙うのか。彼らを倒した先に何を望むのか、まったく分からない。ただ、そういう生き方しか出来ないとでも言うように。

 冒頭の襲撃シーンから、列車強盗、そして「デス・バレエ(死のダンス)」と呼ばれた伝説のラストシーンに至るまで、物語はパイク一味もソーントン達も同列の存在として、取り残された時代の中で、自らの生きる理由を、場所を、いやもしかしたら、すでに時代の中に自分の居場所がないことを悟り、死に場所を探し続けていたのかもしれない。
 ラストシーンでのパイク一味の歩く姿のどこか吹っ切れた表情、全てが終わり、町の片隅に座り込むソーントンの虚無感。

 余りにも冷酷無比に銃撃シーンを見つめ続けたペキンパーの演出、素晴らしいカメラワークとカッティングで強烈なバイオレンスシーンを生み出した撮影のルシアン・バラードや編集のルイス・ロンバルド、そして時代に取り残された男の悲哀と生き様を体現したウィリアム・ホールデンアーネスト・ボーグナインロバート・ライアンら俳優陣の演技。

 西部劇の王道を行くのではなくその滅びを描きながら、なおかつ西部劇の大傑作となった奇蹟の作品。
 映画好きなら、一度は見ないと損をする、☆でいうなら6を挙げたい大傑作だ。