『などらきの首』(☆4.0) 著者:澤村伊智

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 「などらきさんに首取られんぞ」祖父母の住む地域に伝わる“などらき”という化け物。刎ね落とされたその首は洞窟の底に封印され、胴体は首を求めて未だに彷徨っているという。しかし不可能な状況で、首は忽然と消えた。僕は高校の同級生の野崎とともに首消失の謎に挑むが…。
 野崎はじめての事件を描いた表題作に加え、真琴と野崎の出会いや琴子の学生時代などファン必見のエピソード満載、比嘉姉妹シリーズ初の短編集!

Amazonより

 著比嘉姉妹だけでなく、同シリーズの登場人物たちが登場する作品も収められたシリーズ初の短編集。長編では、普通の日常が些細な予兆から少しずつ「なにか」に侵食されて崩壊していく展開と、一方で物語が壮大になり過ぎて後半別ジャンルのようになる事が多かったですが、短編の分量になることによって物語がいい意味で一本芯の通ったスッキリした仕上がりになっています。
 元々の描写はしっかりしているので、枠に収まらないストーリーの破壊っぷりがある意味楽しめる長編と、意外性はなくてもその分怪談(ホラー)としての王道を見せる短編、どちらも捨てがたい魅力があると思います。

『ゴカイノカイ』
 原因不明の声と痛みが襲ってくる雑居ビル5階の怪異。
 しょっぱなで別の霊媒師が登場するけれど、シリーズ物なので失敗しちゃうんだろうんなと想像がつくので、実際に真琴が登場してからが本番。物語の捻りはあるけれど、ホラーとして読んだ場合怖さがあるかというとそこまでではないかなぁ。

『学校は死の匂い』
 体育館で目撃される、繰り返し飛び降り自殺する女の子の幽霊。
 いかにも学校の七不思議にありそうなエピソードからの物語の展開の上手さがすごい。短編という分量の制約の中で、一つ一つの描写がクライマックスで明かされる幽霊の行動に結びつく。学校を舞台にすることで現代的な問題もストーリーも内包しつつ、エピローグ部で再び怪談に回帰していく、「などらきの首」とならんで収録作の中でも上位の出来。

『居酒屋脳髄談話』
 その居酒屋ではいつものように男性職員たちが部下の女子社員にパワハラまがいの言動を繰り返すが、その日に限って女子社員の態度が違い、、、。
 そのタイトルや登場人物の会話でも分かるとおり、夢野久作の「ドグラ・マグラ」が下敷きにした会話を楽しんでいると、最後に想定外のオチがまっています。そこから、最後にもう一度物語の空気を変えてしまうセリフも、皮肉がきいている。

『悲鳴』
 過去に殺しがあった場所で行われた自主映画の撮影で、不思議な事が起こる。
 ホラー映画にあありそうな冒頭から、イタズラで仕掛けたはずのことが現実にという都市伝説的怪談話。登場人物だけでなく読者もちゃぶ台を返される皮肉めいたラストはこういう短編集に収められるからこそ活きてくると思う。

ファインダーの向こうに』
 ハウススタジオの撮影中、ファインダーに映る謎の風景。この現象の意味するものは、、、。
 今回の収録作の中では唯一といっていい後味の良い作品。風景の謎が解明した時の、不可思議現象でありながら、その理由とそこに隠された霊の思いが心にスッと落ちる。謎が明らかになったあとのエピローグ的な部分も蛇足にはなっていない。

『などらきの首』
 田舎の洞窟にあるといわれる「などらきの首」。その首を見るために少年達は洞窟に潜り込んだが、、、。
 村に伝わる言い伝えから始まる一連のストーリー展開は正統派の怪談でありながら、首消失にまつわる部分はミステリとして成立している。ラストはそこからキチンと派生して再び怪談的なオチに戻っていく。正統派の怪談としてお手本のような出来だと思う。

 
採点  ☆4.0