再読『十角館の殺人』(☆4.5)  著者:綾辻行人

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 十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の七人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!’87年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。

Amazonより

 綾辻さんの新刊を期に、以前の作品を少し読み返そうと少しずつ再読中。デビュー作の「十角館の殺人」も、改訂版で本当に久しぶりの再読。

 以前の記事を読み返してみると叙述の部分で少し不満が残ると書いていた。改訂版という事でその辺りを気にして読んでみたが、以前のような引っ掛かりは感じなかった。犯人が分かっているだけに、初読に比べてそのあたりがなお引っ掛かっても仕方ないと思っていたのだけれど、このあたりは改訂で手が入ったのだろうか。

以下、殆どネタバレ状態ですので、未読の方は読まないでください。




 初読当時はクリスティの『そして誰もいなくなった』ばりのクローズドサークル。登場人物がどんどん死んでいくのに犯人がわからない展開、プレートや11角形のコップなどの小道具の存在にワクワクし、過去の事件と現在の事件の因縁にドキドキし、そしてあの一行にゾクッとして・・。改訂版ではページを捲るとあの一行が飛び込んでくる。この構成は素晴らしい。

 犯人やトリックが分かった状態で再読すると、いろんな所まで気を配って書いているんだな、というのが分かる。孤島での描写と本土での描写を比較しながら読むと、色々なところに伏線が張ってあるし、いかに読者をミスリードさせて楽しませよう(?)と工夫しているのも伝わる。初読でもやられたが、本土の登場人物が江南がコナン・ドイル、守須がモーリス・ルブランを想像させてしまうのも、確信犯だったし。

 これだけミステリとして色々な要素を詰め込んで、なおかつ成立させているデビュー作というのは奇蹟だと思う。また、再読に耐えうる小説としての完成度、これもすごい。プロローグの独白を受けてのエピローグ、「審判」という言葉の余韻は哀しくも美しい。犯人の連続殺人に駆り立てた動機。たとえ復讐といえど、その行為の不合理さは犯人もまた自覚している。すっかり忘れていたが、トリックを弄する中で、最後に死を選ぶのではなく、生き残ることを選択した理由付けもきちんとあったのにはびっくりした。

 本格ミステリの新たな幕開けを飾った作品であるし、実際、ミステリとしての純度に注目されることが多い作品だと思う。一章の冒頭、登場人物のエラリィが「ミステリは刺激的な論理のゲーム」と語っている。いかにも著者の言葉を代弁している台詞だが、改訂版に掲載されていると著者の後書きによると、あの発言はあくまで登場人物のエラリィの言葉であって、必ずしも著者自身の思いではない(まったく違うというわけではないようだが)らしい。
 改めて読み返してみると、たしかにミステリとしての要素(トリックであったり叙述であったり)は凄いのだが、それだけで価値を語るのはもったいない、間違いなく一時代の金字塔といえる小説だと思う。




採点  ☆4.5