『図書館の殺人』(⭐3.2) 著者:青崎有吾

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まずはあらすじ。

期末試験中のどこか落ち着かない、ざわついた雰囲気の風ヶ丘高校。試験勉強をしようと学校最寄りの風ヶ丘図書館に向かった袴田柚乃は、殺人事件捜査のアドバイザーとして、警察と一緒にいる裏染天馬と出会う。男子大学生が閉館後の図書館内で殺害された事件らしいけど、試験中にこんなことをしていていいの? 閉館後に、山田風太郎の『人間臨終図巻』で撲殺された被害者は、なんとなんと、二つの奇妙なダイイングメッセージを残していた……。“若き平成のエラリー・クイーン”が満を持して贈る第三長編。
“館”の舞台は図書館、そしてダイイングメッセージもの!

東京創元社HPより


 ブログでは記事にしてないですが、このシリーズの過去2作の長編も読んでいてこれが3作目。個人的には1作目より2作目の方が洗練されて好きだったですが、3作目になってさらに文章も落ち着いて洗練されてきたかな。

 シリーズ探偵である天馬はどちらかというと鋭い名探偵タイプというわけではない。推理を重ねていって少しづつ修正しながら結論に至っていくタイプだと思ってます。この作品の中でも、少しづつ推理が変容していく様は本家クイーンの『ギリシア棺』を思わせなくもない。ただし、『ギリシア棺』で若きエラリィが見せた推理を間違い苦悩する姿がある種若者の熱さを感じさせたのに比べ、余りにも作品の表層に浮かぶ点が少ないので、天馬の苦悩が伝わらないところがあるのは否めない。

 このシリーズは、ある種キャラ読みが出来なくもないかな、と過去作では思ってたのですが、その際たる者である主人公の天馬がデビュー作に比べてこの作品では落ち着いてきているので、結果として彼を取り巻くキャラ達の個性が薄くなってきて、作品の中でみることのできる言動や行動の読者に与える印象が弱くなってきているかな。

 作品の要の一つである犯人当ての部分については、ダイイングメッセージの直接的な中身より、その書かれた状況の分析にウエイトが置かれている気が。作中に「後期クイーン問題を意識しているような場面も出てきたけれども、ウエイトの置き方によって、その部分は作品の中でうまく回避というか、消化していると思う。このあたりは「平成のエラリー・クイーン」の面目躍如なのかも。
 
 事件が解決してのエピローグについては、蛇足かなとちょっと思います。どうしてそう思うのかを考えると、もしかしたら事件の動機部分が少しぼんやりしているからのかな~と。
 シリーズの中では、個人的に一番印象が薄い作品。作者の技量が上がってきて作品として洗練されていってるのだけれども、その分なんだか平均的な作品になってしまったのかな~。

 



採点  ☆3.2