『蠅男』(🌟4.2) 著者:海野十三

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まずはあらすじ。

SF怪奇傑作小説

 日本全土を恐怖のどん底に落し込んだ殺人予告の脅迫状!!そして送り主の署名は「蠅男」である。
 この凶悪無残な殺人鬼の手から富豪の老人の命を護るため、警察と探偵帆村荘六は厳重な警戒網を敷くが密室の中で老人は殺害された。
 「蠅男」は煙突の中から侵入が可能でしかも身長2メートル以上という勘定になる。
 次々に起る犯行の中に、世にも奇怪な殺人鬼と帆村荘六の対決の日は近づく。

広済堂ブルーブックス版あらすじより


 ぶらぶらと回った古本屋で目に付いた。海野十三、蠅男、そしてあらすじ・・・

うひょひょ♬

 どう考えても好物な気がする(っていっても海野さんは読んだことなくイメージなだけ)。ページ数的にも中編程度の長さだし、短編も3つついてるし、買うべし!!


問題の「蠅男」とよばれる不可思議なる人物は、案外その以前から、われわれと同じ空気を吸っていたのだ。

 この小説の冒頭の一行・・・いいじゃないですか、昔のミステリーというか本格というか、ちょっとこどもがみるのは如何わしそうな(決してエロだけではない)夜9時台の二時間ドラマのオープニングっぽくて。同じ小見出しの最後の方に出てくる「グレート大阪」という表現も意味がわかりませんが、とにかく大阪はすごいんだぞ、というインパクトが伝わってきます。

 事件の発端はその「グレート大阪」に漂う異臭の匂い。その匂いに興味を持って発生源を探す青年探偵帆村荘六。偶然大阪の宿に泊まっていただけで匂いの元を突き止めようという探究心が素敵すぎますが、そこで発見されたのが暖炉に逆さに突っ込まれてた謎の死体。駆けつけた警官と共に自宅を捜索している帆村に襲いかかるのは、扉の隙間から現れた機関銃!!すごい展開です・・。

 同じ頃に大阪の大富豪に届く、一通の殺人予告。それに同封されていたのは羽も足も毟りとられていた蠅のミイラ。いよいよ蠅男がその怪しい姿を現し始めます。殺人予告を受けて助けを求められた警官たちと、病院から脱走した(!!)帆村の警護をあざ笑うかのように殺人は起こります。この事件の犯人像を推理したところ、冒頭のあらすじに出てきた摩訶不思議な犯人像になっていくわけです。

 といった感じで物語全般をつらぬく古き懐かしき探偵小説の匂い。全体としても新聞小説のように多くの小見出しで章がまとめられているので比較的読みやすいです。帆村や警察の裏を書くような連続殺人がつづく訳ですが、その推理部分よりも機関銃乱射に象徴される妙にアクションがかった展開の方が印象に残って、アクションサスペンス(?)な色合い。これも昔の探偵映画っぽいですね。途中で描かれる温泉街のアトラクションなんかも本編と関係あるのかないのかよくわからないけど面白い。

 そしていよいよクライマックスで明らかになる蠅男の正体。
 すごいです、まさかそうくるとは・・・。こりゃあわからん。今だったらバカミスと言われる事間違いない。想像の斜め上を行ってくれましたが、でもある意味考える為のヒントはあらすじではっきり示されているといえば示されてるんですけどね。
 読み終わってうひょひょと想像してたのとは違う作品でしたが、でも面白かった。これはこれで楽しまないと勿体ないですな。普通に買おうと思ったらこの版元のは見つからないですが、実は青空文庫でも読めるみたいなので、気になったらぜひ一度目を通して目眩くカオスの世界を堪能してください(笑)

 ちなみに併録されていた短編は「振動魔」「十八時の音楽浴」「赤外線男」。どれもタイトルが如何わしくて素敵ですが、読み応えがあります。特に「振動魔」のタイトルからは想像できないラストの本格風味と、「十八時の音楽浴」のなんともいえない世界観は読む事が出来るなら損はないと思います。

 いやあ、海野十三素敵です。積ん読にも本があるし、時間があったらまた挑戦しよう♬




採点  ☆4.2