『顔のない敵』(☆3.2) 著者:石持浅海

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1993年、夏。カンボジアバッタンバン州。地雷除去NGOのスタッフ・坂田洋は、同僚のアネット・マクヒューと、対人地雷の除去作業をつづけていた。突然の爆発音が、カンボジアの荒れ地に轟く。誰かが、地雷を踏んだのだ!現地に駆けつけた坂田とアネットは、頭部を半分吹き飛ばされたチュオン・トックの無惨な死体に、言葉を失った。チュオンは、なぜ、地雷除去のすんでいない立入禁止区域に踏み入ったのか?そして、これは、純然たる事故なのか?坂田の推理が地雷禍に苦しむカンボジアの哀しい「現実」を明らかにする―。表題作を含め、「対人地雷」をテーマにした、石持浅海の原点ともいうべきミステリー6編と、処女作短編で編まれたファン待望の第一短編集。

yahoo紹介より

 

今まで読んだ小説のほとんどにおいて、その登場人物の感情に共感できなかった石持さん。
さてさてこの作品も非常に評価に困るんだよな~。

 

これまでの本でしばしば感じた、犯人のあるいは登場人物の心情の歪み感に無自覚すぎるんではないかと感じてしまった部分、今回も感じないわけではありません。
ただこれまでの作品に較べると違和感的なモノは薄いのかなあ~。
これはまあ、大いなる殺人ともいえる戦場においてもっとも「顔のない」殺人兵器、対人地雷をモチーフにしてるからかもしれませんね~。
かなり特殊な状況(特にカンボジア)などを舞台にした作品においては、犯行の動機に関しては分からないでもありません。
もしかしたらこれがそれぞれ独立した短編だったならもう少し評価したかもしれない。

 

ただそれぞれの作品(最後の作品を除く)がリンクしているとなると、1991~200X年の間での登場人物達の心の揺らぎがあまり感じられないのはちょっとね。
それぞれの事件においてかなり特殊な感じの結末を強いているので、よけいそういったものを求めるのかもしれません。
いくら収録作品が時系列に並んでないとはいえ、それだけではちょっと納得できないかもしれない。

 

そういった肉付けの部分での相変わらずの曖昧さが、著者が選んだ対人地雷というモチーフに関する部分の印象の弱さに繋がっているかも。
後書きを読む限り、著者自身対人地雷に関してはかなりの関心を持って取り組んでいるのは理解できるのですが、その「顔のない兵器」としての怖さよりもあくまで登場人物の行動規範程度の扱われ方に収まってしまってるような気がします。
せっかくの面白いテーマを持て余してる感じがしないでもない。その割りにロジックそのものも結構穴だらけな感じはするしな~。

 

個人的に面白いなと思ったのは表題作とあとは「利口な地雷」かな。
逆に「銃声では無く、音楽」と唯一テーマから外れた題材「暗い箱の中で」は犯人、あるいは登場人物の考えがあまりにも極端すぎて首をかしげてしまった。
うーん、結局けなしてるかも。
やっぱりこれは好き嫌い分かれるでしょうな。にしもて、「本格ミステリランキング」国内第2位はちょっと評価高すぎだと思います。


採点   3.2

(2006.12.21 ブログ再録)