たいりょうのちょっと一息

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『BG、あるいは死せるカイニス』(☆3.6) 著者:石持浅海

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天文部の合宿の夜、学校で殺害されたわたしの姉。男性化候補の筆頭で、誰からも慕われていた優等生の姉が、どうして?しかも姉は誰かからレイプされかけたような状態で発見されたが、男が女をレイプするなんて、この世界では滅多にないことなのだ。捜査の過程で次第に浮かび上がってきた"BG" とは果たして何を指す言葉なのか?そして事件は連続殺人へ発展する―。全人類生まれたときはすべて女性、のちに一部が男性に転換するという特異な世界を舞台に繰り広げられる奇想の推理。破天荒な舞台と端整なロジックを堪能できる石持浅海の新境地。

 

石持作品は、「月の扉」「水の迷宮」「セリヌンティウスの舟」を読んでいますが、共通して思う事がミステリとしてはまずまずなものの、登場人物に圧倒的に共感できないこと。
特に「水~」の事件の処理、「セリヌンティウス~」の動機部分において、あまりの小説的な登場人物の思考に興醒めしてしまいました。

 

そしてこの作品。かなり前に冴さんがオススメしてくれていたのですが、やっと読みました。
今まで石持氏の弱点として感じていた部分が、「生まれてくるのは全て女性、成長の過程において一部の人間が男性へと変化する」という特殊な世界設定をつくる事によって逆にいい方向に転じているのではないかと思います。

 

それまでの作品と同様にロジックの為に人間が存在しており、その結果根本の心理的要素がアンチリアルになってしまうという印象そのものは変わらないのですが、そのアンチリアルな部分がこの非現実な設定の中では逆にリアルを構築し、結果としてロジックそのものの説得力も他の作品に比べ圧倒的に高い完成度を成しえていると思います。
そしてアンチリアルな世界に説得力を持たせた事によって、読みやすさもかなりあがったと思います。

 

事件のトリックそのものはかなりシンプルではありますが、犯人がそこに至る動機や登場人物の2面性や偶像崇拝的要素はいかにも石持さんらしいシニカルな部分も持ち合わせつつも、読者との距離感が乖離していないという意味でも今まで読んだ作品の中では一番面白かったですね。

 

ただ逆に特殊な設定を用いなければ成立しえないという小説家としての幅の限界というのもやや感じられ心配かなと思ったりして。文章家としてはそれなりに高いレベルにはいらっしゃるとは思いますが。
まあ、世間の評判が高い「扉は閉ざされたまま」やデビュー作の「アイルランドの薔薇」など読んでない作品もあるのでなんともいえませんが。


採点   3.6

(2006.7.28 ブログ再録)