『最後の一球』(☆3.4) 著者:島田荘司

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「二番手の男」が投じた友情と惜別の一球が御手洗も諦めかけた「事件」を打ち砕く!
「奇跡が起こったよ石岡君」心躍る感動の青春ミステリー。
御手洗潔シリーズ長編。

yahoo紹介より

 

現時点での御手洗シリーズ長編の最新刊です。
といっても騙されてはいけません。だって御手洗ほとんど出てきません。っていうか推理の過程すら披露しませんから。
物語のほとんどは「二番手の男」という扱いのある野球選手の手記から構成されています。
だからミステリというよりは、青春小説といった方が近いと思います。問題になる事件のトリックも手記に入る前には大よその手口は想像つくし。

 

この作品、近年の島田作品の例に漏れず、これもまたある社会犯罪を取り上げています。
それは闇金融における高利貸しの問題、それにプロ野球八百長問題が絡んで・・・
正直時代設定的に厳しいネタだなと。事件発生年代は『ロシア幽霊船事件』の直後ですから、1993年ですね。
これに関しては、時代設定当時ではもしかしたら闇金融問題に触れている点はリアルなのかもしれません(八百長は・・・)。
ただこれが2006年に書かれた小説のテーマとしてみるにはちょっと古臭さは否めない。小説に登場する暴力団もこんなに馬鹿じゃないとは思うしねえ・・・。

 

なんだか批判的なコメントばかり書きましたが、じゃあ読むのが辛いのかというとそうでもない。
作品の大半を占める手記の部分がそれなりに読めるし、青春小説として若干古臭さを感じるものの、一定水準以上のものを感じました。
八百長をする選手の心情というか、その背景については暴力団がバカすぎてどうなのよと思いますが、ある二人の選手の交流としては伝わってくるものがあるし、タイトルの「最後の一球」という言葉も決まってると思う。(それでも闇金融の件や社会批判はややクドイですけどね)

 

そういった意味では、この売り文句はちょっとサギかも知れない(笑)。
御手洗の超人的な活躍は微塵も無い(そもそも御手洗である必要が無い)わけだし、粗筋紹介としてもかなり間違ってる(読めばわかります)。
ミステリを期待すると拍子抜けしますが、近年の島田作品の中では比較的読める小説だったんじゃないのかな~。


採点   3.4

(2006.12.22 ブログ再録)