『シャドウ』(☆4.7) 著者:道尾秀介

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人間は、死んだらどうなるの?―いなくなるのよ―いなくなって、どうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話から三年後、鳳介の母はこの世を去った。父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが…。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは? 話題作『向日葵の咲かない夏』の俊英が新たに放つ巧緻な傑作。

 

2007年度『このミステリーがすごい!」国内部門第3位
2007年度『本格ミステリベスト10」国内部門第6位

 

2007年度の『本ミス』においてベスト10に3冊ランクインを果たした著者。
近年の作家に関しての知識が極端に薄い僕にとっては、これが初めて読む道尾さんの作品ですが・・・

 

やられました、その一言。
冒頭から複数の人間の視点で語られる物語、いかにもと言った風に断ち切られる語尾・・・
最初から叙述ミステリの匂いプンプンにも関わらず、二転三転あるいは四転する物語に思い切り騙されてしまいました。

 

とにかく謎の提示が上手い。一見、読み進めていくほどに気になったパーツを頭の中で組み立てて真相を考えようと思うぐらい分かりやすい物語の構造がある。
しかしながらさらに進んでいくとそれが著者のミスリードであると判明、さらにそこから新たな物語を組み立てるも・・・
とにかく複数視点で描きながらもあからさまな嘘はない。というよりも精神病のエピソードが多数盛り込まれているので、どれが無意識の嘘(虚構)の物語なのか判別できないのだから、読者としてはただただ振り回されるだけ。
読み終わって特に秀逸に感じたのは第1章における恵の死の直前の独白部分。読み返してみて改めてため息が出るばかりだった。

 

またそういったトリック一本槍ではなく、登場人物の造形、あるいは物語の背景が明確に描かれているので、物語のリーダビリティーとしてもかなり秀逸なものがあった。
事件の真相そのものはかなり生臭く、悲劇的な匂いを感じる。それぞれの人物の行動(特に大人)において、非常に同情しにくい部分がある。あるが、それが決して理解できないというわけではない。それは一つの物語を通して、精神医学の難しさの一端を感じられたからかもしれない。
すべての人物においてその心理矛盾も含めてかなり綿密に計算されていると思うし、だからこそラストで物語の中心たる子供が父親に見せる態度にはスッと心に落ちるものを感じ、うかつにも涙がこぼれてしまった。

 

現在昨年度の私的ランキングを発表している最中に読んでしまったので、ランク付けさせることは出来ないが、もっと早く読んでいれば間違いなくベスト10には入れたであろう作品だった。
まだまだ未読の作品もあるし、こういう事があるから読書はやめられないし、ランキング本も参考になるんだよね。



採点   4.7

(2006.12.18 ブログ再録)