『独白するユニバーサル横メルカトル』(☆4.8) 著者:平山 夢明

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恐怖か快楽か。
残虐か諧謔か。
嘔吐か感涙か。
……地獄の超絶技巧師・平山夢明は激しく読者を挑発しつづける。
断言しよう。凄まじき傑作集である。
――綾辻行人

狂気に優しい平山夢明が紡ぐ、優しい狂気の迷宮八つ。
癖になります。
――京極夏彦

神です、神
――柳下毅一郎

本年度日本推理作家協会賞受賞作(表題作)
凝視せよ。ここにあるのは宝石だ。
実話怪談のスーパースター・平山夢明の恐るべき結実。圧巻の第一短編集。

【警告】
本書は読書時、脳内麻薬物質エンケファリン、β-エンドルフィンが大量放出される可能性があり、その結果、予想外の多幸感、万能感に支配されることがあります。衒学的な推計によると是に拠る平山本に対する依存性は読了者は非読了者に比べ約2倍から4倍高くなります。

帯文より~ビーケーワン参考~

 

わはは、なんじゃこの帯文は^^;;特に最後の警告、まったく意味がわかりません。その分からなさ加減から妖しさがこの短編集の魅力をちょびっと伝えてる。
でもこれに関しては読まなきゃまったく想像できません。

 

「メルキオールの惨劇」ではそのあまりに強烈な世界観(→グロ)と表現力(→グロ)にくらくらとなりましたが、この作品も負けちゃいませんぜ。
グロさでいうと「メルキオール~」の方が凄い気(いや、なかには凄いのもありました)がしますが、純然たる世界観という意味ではこちらの短編集の方がより濃密かつ純粋に作品として昇華されてる気がするし、作家としての才能が一気に溢れ出した作品といえるかもしれない。
とにかく中途半端な短編がひとつもない完成度の高さ、素晴らしいです。

 

◆「C10H14N2(ニコチン)と少年―乞食と老婆」

 

最初から中々に強烈。いっさい理由付けされない不条理なまでの暴力。
善意と悪意の間で揺れ動く少年の心を描きつつも、徹底して救われない物語。表現は抑え目ながらも、予想する余韻を裏切る、強烈なオチ。
ここまで淡々と尚且つ悪意の滲む短編というのも珍しいのではないか。

 

◆「Ω(オメガ)の聖餐」

 

もう400キロを越える、もはや人間とはいえない怪物。食料は人体。さらには脳味噌を食することによって、知識を捕食する。
脳を食べることによって・・・というネタそのもは既存の作品でも見られるネタ。それを使いながらも、まごうことなき平山作品。
ラスト、語りべが選んだ運命に多少ながらシンパシーを感じてしまいました。

 

◆「無垢の祈り」

 

この短編集の中では一番まともな作品かもしれない。もしかしたら黒乙一と同系の香りが残ると感じるかもしれない。
しかしながらこのラストの余韻、乙一が書いたならまさにタイトルのような余韻かもしれないが、そこは平山作品。
さらに続くかもしれない物語の残酷さが透けて見える気がするのは僕だけ?

 

◆「オペラントの肖像」

 

これが一番好きだったかな。“条件付け”という設定がやや掴みづらかったものの、読んでいくうちになんとなく整理は出来た。
そこへ持ってきてラストの鮮やかな反転と救いの無いラスト1行。
どこか救いを求めようとする読者をあざ笑うかのような物語は、平山作品ならこういうオチかなと想像するオチをするっとはずして尚且つ悪意でしめる。
ううむ、異形な、でもシンプルな本格テイストについつい読書中なのに読み返してしまった。

 

◆「卵男」

 

正直順番が「オペラント~」の次なだけに、若干オチが予想がつく部分はある。
予想がつくのだが、そのオチが眼前に広がってなお、そこに広がる世界の曖昧さが恐ろしく深い気がする。
単純ゆえにもしかしたら一番理解するのに時間がかかる短編なのかもしれない。

 

◆「すまじき熱帯」

 

全編通して表現される現地語の当て字たる「日本語」あるいは「漢字」のセレクトにそこはかとないセンスを感じる。
ラストのオチも含め、どこか落語的な脱力系の作品と感じたのだが、他の短編とならべて違和感がないということは、平山エッセンスがきちんと昇華された上での技巧のなせる技なのか。
これを読むとついつい『地獄の黙示録』、いやむしろその制作ドキュメント『ハート・オブ・ダークネス~コッポラの黙示録』を見たくなるのは僕だけ?

 

◆「独白するユニバーサル横メルカトル」

 

第59回日本推理作家協会賞短編部門受賞作品。
収録作ではおそらく最もグロくない作品。乙一『夏と花火と私の死体』と同様の、異色の一人称で語られる物語。
こういった手法そのものは珍しくないが、なぜこの語りべなのかという必然性と物語の妖しさのリンクっぷり、そして意味不明のタイトルが実はこれ以上ないほどに作品を表しているんだな~と感心。
シンプルゆえに著者の技量をみせつけられた作品。

 

◆「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」

 

ラストのラストで、強烈なグロが待ってました(笑)。
とにかく強烈なまでに痛い女性、はっきりいってこんな事されたらあそこまで生きてないって突っ込みたくなります。
それでいて語りべが見る夢と現実の境界線の曖昧さには、どこか透明なものを感じさせ、ラストはむしろ静謐なものを感じました。
でもそんなグロさに酔っていると、実はお約束の逆転劇が隠されていて、すっかり騙されました。
ある意味、この短編集を象徴する作品であり、なぜ短編集の最後がこれなのかという拘りを感じました。

 

それにしてもこれが今年度「このミス」1位とは、そりゃ~ビックリですわな^^;;
確かに本格のエッセンスはそこかしこに散りばめられてる気がしますが、そこまで一般受けする作品とは思えない。
まあ、「このミス」は昔『プリズンホテル』もランクインした事があるし、ミステリというものの定義がどんどん曖昧になってる現在において、この1位はある意味象徴的なのかもしれませんね。
この短編集に、島田荘司御大が提唱する「21世紀型本格」のダークサイドな部分を感じたのは僕だけでしょうか(笑)。

 

採点   4.8

(2006.12.11 ブログ再録)