『麦の海に沈む果実』(☆4.0) 著者:恩田陸

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「ここに三月以外に入ってくる者があれば、そいつがこの学校を破滅に導くだろう」―
湿原の真中に建つ全寮制の学園に、二月の終わりの日に転 入してきた水野理瀬。彼女を迎えたのは、様々なしきたりや、奇妙な風習が存在する不思議な学校だった。
彼女と学校生活を共にする仲間、「ファミリー」もそ れぞれに謎を抱えていた。功は、閉ざされたコンサート会場の中から失踪し、麗子は、湿原に囲まれて外に逃げ出せないはずの学園から消えうせていた。残りの メンバーは、麗子はすでに死んでいるのではないか、と校長につめよる。それに対し、校長が提案したのは、麗子の霊を呼び出す交霊会の実施だった。その場で 理瀬に奇怪な現象が襲う。
「三月の学園」での奇妙な学園生活を送る理瀬の隠された秘密とは。

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「三月は深き紅の淵を」はかなり好きな作品だったのもあり、その続編(?)ともいえるこの作品を手に取りました。

 

これまた面白かったですね~。
作中をとりまく不思議な色のような空気感に浸りつつも、ゴシック・ホラー調の展開も楽しめますし、どこか背徳的な薫りを漂わせる人間関係もすごく魅力的だと思います。
そういう雰囲気を楽しむと言う事だけでも、高い完成度を誇っているかと思います。

 

ところで、どこかで恩田さんは謎の提示の仕方が抜群に上手いという事を書いたような気がするのですが、この小説においては謎の提示というよりも、物語の提示の仕方が上手いといった方がいいのかも、という気がしました。

 

「3月の国」と位置づけられた学園で暮らす登場人物達と、そこで巻き起こる不思議な事件の数々が主軸となって物語がすすみますが、それらがくっきりと交錯していくのではなく、むしろ白い布に垂らされた数々の色々が滲んでいき、それがある部分で混ざり合うといった感じ?

 

登場人物が喋る言葉も、物語を進めるための言葉ではなく(もちろんそういう言葉もありますが)物語の為の物語といいますか、この世界観は「三月は~」と同様であり、また恩田作品全般に共通する魅力なんだと思います。

 

ようするに恩田作品というのは読者に読まれる為の物語という部分は最低限必要なものとして、むしろ読者が物語を物語っていく要素というのが強いのではないかと。そう考えるとそれまでの作品もしっくりくる部分があるような気がします。

 

だから、ある意味唐突とも予定調和ともとれるラストの展開はあくまで物語の閉じ方の一つの例であり、閉じ方は読者の数だけあるんだよ、という風にも感じ取れます。
そういう意味では、恩田さんの魅力を堪能するという意味では、ミステリー調の作品よりはどちらかというとファジーな物語の要素が強いこのような作品の方がいいような気がします。

 

ただ、こういうタイプの作家さんの場合、文章が肌に合わなければ全然ダメな気もするところが微妙だと思いますが。


採点   4.0

(2006.7.14 ブログ再録)