『六番目の小夜子』(☆4.4) 著者:恩田陸

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津村沙世子―とある地方の高校にやってきた、美しく謎めいた転校生。高校には十数年間にわたり、奇妙なゲームが受け継がれていた。
三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が、見えざる手によって選ばれるのだ。
そして今年は、「六番目のサヨコ」が誕生する年だった。
学園生活、友情、恋愛。やがては失われる青春の輝きを美しい水晶に封じ込め、漆黒の恐怖で包みこんだ、伝説のデビュー作。

 

最近ハマッタ恩田さんのデビュー作。
相当前に一度読んだ事があったんですが、あまりいい印象を持ってなかったような気がします。ただ学園祭のイベントシーンだけは強烈に覚えてましたが。

 

で、今回の再読。いやあ、それまでの印象ががらっと変わるぐらい面白かったです。
全体としてはホラーテイストが強いですが、単純にホラーというだけでなく、ミステリ、青春小説、家族小説、いろんな要素が交じり合った作品ですね。
それらが混ざり合い浮かび上がる、小夜子という存在。学園の生徒達の誰もがなんらかの形でその存在を知ってはいるものの、確かなカタチとして浮き上がるものはほとんどない。その曖昧さは後の恩田作品に多くみられる作風であり、デビュー作からこのクオリティというのはすごいと思う。
特に冒頭に書いた学園祭のイベントシーンで見られる群集心理の怖さ、それと表裏一体の静謐な美しさは『Q&A』でみられる群集心理よりも一層強烈に頭に焼き付いてくる。

 

一方で転校生の津村沙世子というどこか謎めいた存在の美少女を配しながらも、『夜のピクニック』でも見られた普遍的な青春小説の魅力もきちんと味合わせてくれる。
特に関根秋と沙世子のどこかぎこちない関係というのは、友人である花宮雅子と唐沢由紀夫のカップルとの対比もあり読者の興味をかきたてるものになってると思う。

 

これらの要素が複合的に絡み合うクライマックスは、おそらく多くの読者にとって想像外の展開なのではないだろうか。どこか超越的な力を感じさせるこの場面は非現実的な要素を多く含みながらも、どこか刹那的な怖さを感じさせて美しいと思った。

 

あえていうなら、このクライマックスに至る展開の部分でなぜ津村沙世子があのような関わり方をしたのかという部分が、その後のクライマックスで明らかになる事実との整合性で、納得しかねるものがある。

 

ただ部分的な瑕は感じられるものの、作品としての美しさとクオリティは他の恩田作品と較べても決して色褪せない、素晴らしい小説だと思う。

 

採点   4.4

(2006.8.17 ブログ再録)