『法月綸太郎の新冒険』(☆3.4) 著者:法月綸太郎

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全編、これぞ本格推理!「あの男」がついに最前線へカムバック!!アヴァンギャルドな謎。アクロバテイックな推理。アメイジングな解決。そして、胸を打つ余韻。あらゆるページに本格ミステリの現在と未来が宿る!法月綸太郎を超えるのは、やはり法月綸太郎だった。 


Amazon紹介より

著者の短編集第2弾です。『~の冒険』に比べると、よりパズル性が強くなったというか、正統な新本格って感じがします。
正統な新本格の定義は聞かないで下さい。なんとなくそう思うだけなんで。


『イントロダクション』

何故だか収録されてる、雑誌に連載していたコラムの1篇です。
と思ってたら、今回の短編集に収録されてる作品はすべて初出がこの雑誌でした。


背信の交点』

途中に時刻表や路線図が入るあたりに「法月もトラベルミステリー?」と思ったんですが、アリバイとかはそんなに重要じゃありませんでした。
とはいっても少しは関係あるんですけどね、ひとつの状況から表裏関係にある二つの動機を暴き出すテクニックはなかなかに練りこまれてます。綸太郎が真相に気づく場面もリアリティがあるんじゃないかなあ。
犯人と綸太郎の対決場面は、中期から後期にかけてのクイーンの苦悩がダブる部分が感じられて僕はすごく好きな短編です。


『世界の神秘を解く男』

著者が後書きで語ってる通りトリックの構造は『緑の扉は危険』のものの変形って感じはしますね。
ここに登場する兄と妹の関係なんかはちょっと『ふたたび赤い悪夢』と似てるし、真犯人の採った手法はやはりクイーンのライツヴィル物にでてきそうな感じですよ。よくも悪くも法月綸太郎らしい作品だと思います。


『身投げ女のブルース

この作品は著者が15年来温めてきた構想らしいです。なるほどなるほど、全体としては面白いと思います。なにより解決編で綸太郎に変わって親父さんの法月警視が語るあたりは『ローマ帽子の謎』ですね。
ただ、物語の構造上先が読みやすい気もちょっとするなあ。著者もうまく読者を罠に嵌めようとしてるんですけど、ちょっと正統派すぎるのかなあとも思います。


『現場から生中継』

これはどうなんだ、成立するのかなあ?あまりに偶然に頼った犯罪トリック自体の是非は、別にいいんじゃないのとも思うんですけど。
どうにも留守番電話の構造あたりのトリック(?)がイマイチ腑に落ちないというか、まあ成立はしてると思うんだけど・・・・。


『リターン・ザ・ギフト

これも法月さんらしいロジックの嵐が炸裂してますが、短い中に詰め込まれてる点と交換殺人という構造を捏ね繰りまわし過ぎというか、ちょっと読むのに疲れました。そこから導き出される解答も、まあそうなんだろうという感じ。
とにかく読まされたって感想が残った一遍です。


トータルでみると、『法月綸太郎の冒険』の方が好きですね、うん。

(2006.3.29 ブログ再録)