『法月綸太郎の功績』(☆4.1) 著者:法月綸太郎

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/61yThQleBxL._AC_US400_FMwebp_QL65_.jpg


殺人事件の被害者が残した「=Y」の文字は果たして何を意味する!?あのクイーンの『Yの悲劇』への愛あるリスペクトに満ちたダイイング・メッセージものの白眉、『イコールYの悲劇』他、ロジカルかつアクロバットな推理が冴えわたる傑作ミステリ全5編を収録。


Amazon紹介より

探偵の名前を冠したシリーズ第3弾、過去の短編集に較べてもロジックの純度が高い作品です。

『イコールYの悲劇』

文庫アンソロジー『「Y」の悲劇』(講談社文庫刊)に収録された作品の再録ですね。
作中でも語られてるとおり、一般的にクイーンはダイイング・メッセージに傾倒するようになってロジックの破綻が顕著になったと言われてますが、確かにダイイング・メッセージを成立させるのって難しいなあと思います。
というか、あまり普段聞いたことが無いし、なにより死ぬ直前にそんなもん書き残せるかっていう意見に反論するのは実際難しいよなあ~と。

この短編もダイイング・メッセージそのもの謎自体は結構凝ってるし、被害者がそこに至る発想そのものの説得力はあるんですけど・・・
でも実際この状態でここまで書き残せないだろうと。というより、犯人慌ててたらメッセージが書かれたものは全部持っていきそうな気がするんですけど。
でもこの犯人、意外と確信犯なのかもという気もしますが・・・。

ミステリ好きとしてはダイイング・メッセージと聞くと自然とワクワクするので、ぜひこれからも挑戦はして欲しいジャンルなんですけどね。


『中国蝸牛の謎』

『イコールYの悲劇』に続いて、いかにもっていうタイトルでニヤリとしますね。
そして内容もチャイナ橙を彷彿させるあべこべの密室で起こった推理作家の首吊り死体・・・。
正直導入部の蝸牛(カタツムリ)の渦巻きに関する一考察はあんまり理解できなくて面白くはなかったんだけど、そこで起こる事件の解決はひねりがありますね。
ただ密室トリックそのものはすごくチープというか実用性が低いものなので、ちょっと採点は辛くしなきゃなあ~って思ったんですけど・・・ああ、成程ラストこう持ってきますかと。トリックそのもののチープさもまた作品の構造上必要なものだったんですね。
こういう使い方はさすがにベテランだなあと思わせる佳品です。


『都市伝説パズル』

第55回日本推理作家協会賞短編部門受賞作であり、本場の「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」に英訳が掲載された作品です。
クイーンファンの著者としては、ほんとに嬉しかったんだろうなー。

で内容はというと、うんこれは凄いと思います。
導入部の「都市伝説」の引用、それをなぞったような事件、現場に残された「電気をつけなくて命拾いしたな」という犯人からのメッセージ、容疑者たちのアリバイを一つ一つ検証する過程、犯人の仕掛けたトリックのうまさ、そしてエピローグ部分の怪奇性がきちんと一本の線で完結してて、ここまで無駄の無い短編も久しぶりだなあって感じです。
特になぜ犯人は現場にメッセージを残したのかという部分の理由付けだけで、すべての謎を解明させるあたりは読んでてすごく気持ちよかったです。
クイーンのロジックとカーの怪奇性が融合したような作風が矛盾無く成立してる手際の良さは、確かに著者の本質は短編にあるといえるのかもしれないですね。
でも、個人的にはやっぱり無駄な部分が多い長編の方が好きですね~♪


『ABCD包囲網』

これは『イコールYの悲劇』と同じく講談社文庫のアンソロジー『「ABC」殺人事件』に収録されたものの再録です。まあ、このタイトルで大体想像出来るとは思うんですけど(笑)。

クリスティの「ABC殺人事件」にきちんとオマージュを捧げるような事件の構造、さらには起承転結という昔から言われる物語物のお約束スタイルをトリック部分できちんと使ってる部分は評価できるんですけど・・・。

ロジックを成立させるためのストーリー部分があまりにも強引でしょう、これは。小説というには足りない部分が多くて、実験作ですよねどっちかというと。
後書き部分で我孫子武丸氏が指摘した「なぜ警察は犯人に罠を仕掛けたのか」、これはまさにその通りというか・・・。
別に現実に沿う必要はなくても、作中だけでも説得力を感じさせるようにしないとちょっと興ざめするかも。
このトリックを使うにはページ数が足りないのかもしれないっすね。


『縊心伝心』

うーん、すいません。イマイチ犯人の行動がよく分からなかったです。
となるとなかなかこの短編を語る統べが無いんですよね。個人的には犯人が何故殺人を偽装するのに首吊りを選んだのか、っていう部分の心理状況の件かなあ。
物語の語り口も状況説明がどうしても多くなる部分があるので、どうしても短編として読むには少しうるさすぎるのかな。
他の作品に比べると、ロジックが作品の面白さに直結してない部分があって、今回の収録作品の中では一番地味だと思います。

 

(2006.3.29 ブログ再録)