『心理試験』・『黒手組』・『赤い部屋』 著者:江戸川乱歩

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『心理試験』
 乱歩の短編の中でも代表作のひとつに数えられてますが、初期の作風や本格志向的なことを考えても、これを一番に推すのが妥当かなとは僕も思います。 実際にタイトルにある心理試験の考察の面白さもあるんですが、むしろ犯人である蕗屋清一郎の人物造詣に乱歩らしさが見て取れて、そこが初期の短編が好きな人にはまたいいんじゃないかと。
 妙に自信たっぷりなのにちょっとしたことを見落としてしまう。それに気づいてしまい動揺するあたりは、ちょっと20面相ちっく? きちんとドストエフスキーの『罪と罰』の一場面を乱歩流に消化してるあたりも、筆に勢いがありますね、この頃は。 それにしても、これとD坂をくっつけて映画化した実相寺さんはすげえなあ・・・。


『黒手組』

 「D坂」から始まった、雑誌「新青年」への短編連続掲載第3弾。 乱歩自身が語ってるとおり、すでに「心理試験」で行き詰ってたのか、この作品にはあまり精彩がありません。 暗号の複雑さにはちょっとうまいなと思ったんですけど、それを帳消しにするぐらいの足跡トリックが・・・。
 乱歩自身はそれなりのトリックだと思ったみたいですが、個人的にはこれはないだろと思ってます。

 

『赤い部屋
 個人的には、結構好きな作品です。 谷崎潤一郎の『途上』に影響を受けて書かれたものと乱歩も語ってますが、読んでて作者が嬉々としてこれを書いてたんじゃないかと思えるぐらい、いろんな殺人テクニックがこれでもかというぐらい公開されてます。 まあ乱歩の言うとおり、なかにはトンデモトリックもあるんですが、自身もそれを理解した上で出し惜しみせず使っているのがちょっと微笑ましいですね。
 ラストに向かう盛り上がりもありますし、最後のドンデン返しも、僕自身は気のきいたものの仕上がってると思います。

 

(2006.2.21 ブログ再録)