『地獄の奇術師』(☆3.4) 著者:二階堂黎人

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十字架屋敷と呼ばれる実業家の邸宅に、ミイラのような男が出没した。顔中に包帯を巻いた、異様な恰好である。自らを「地獄の奇術師」と名乗り、復讐のためにこの実業家一族を皆殺しにすると予告をしたのだ。「地獄の奇術師」の目的は何なのか。女子高生で名探偵、二階堂蘭子の推理が冴え渡る、本格探偵小説。

Amazon紹介より

 

新本格を代表する作家の一人、二階堂黎人さんのデビュー作。この作品において、すでに二階堂ワールドに包まれてます。
怪しげな包帯の男、殺人を予告するトランプ、旧家ので起こる連続殺人は乱歩や横溝を彷彿とさせ、密室トリックに対するこだわりはカーを思い出させます。
まさに古き時代の本格推理の魂を受け継いだ作家といえるんじゃないでしょうか。

二階堂作品を代表する名探偵二階堂蘭子も、すでにこの作品からキャラを確立してます。その性格は「女ファイロ・バンス」といわれるぐらい好き嫌いが分かれそうですが、僕は結構好きですね。まあ、いくら父親が警視庁の大物とはいえ、警察からうける厚遇ぶりはちょっと違和感もなくはないですが(笑)。

事件そのものは、結構簡単じゃないかなあ。僕自身は最初の殺人あたりで大体想像がつきました。トリックそのものも、目新しいものはありません。
じゃあ、この小説の何が魅力なのかというと、犯人の動機の異常性と物語全体を包み込む不可避な力の存在っていうところなんでしょうか。
物語のエピローグで起こる非現実的な現象は、のちの二階堂作品のテイストにもなっていくものなので、この雰囲気が好きになるかどうかで、二階堂さんが好きになれるかどうか分かれると思います。

僕自身は乱歩の大ファンでもあるので、こういったちょっと時代がかかった雰囲気は好きですね~。注釈の多さも、個人的には読んでて楽しかったです。

 

(2005.12.3 ブログ再録)