『双頭の悪魔』(☆4.1) 著者:有栖川有栖

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他人を寄せつけず奥深い山で芸術家たちが創作に没頭する木更村に迷い込んだまま、マリアが戻ってこない。救援に向かった英都大学推理研の一行は、大雨のなか木更村への潜入を図る。江神二郎は接触に成功するが、ほどなく橋が濁流に呑まれて交通が途絶。川の両側に分断された木更村の江神・マリアと夏森村のアリスたち、双方が殺人事件に巻き込まれ、各々の真相究明が始まる…。

Amazon紹介より

 

 前回の事件で心に傷を負い旅にでたマリアと会うために、おなじみミス研のメンバーが向かうところから始まるこの作品は、現在でも有栖川さんの代表作(『マレー鉄道の謎』も高い評価を受けてますが)として挙げられる作品です。今まではアリスの1人称で語られていましたが、今回はアリスとマリアの視点から物語が進みます。

 基本的に部外者を受け入れない山奥の村というと、なんだか横溝的に閉鎖性を創造させますが、この村に住む人々自身も外部から集まってきたせいか、そんなに重苦しくないですね。どちらかというと性善説の立場に立ってそうなマリアの視点というフィルターを通してるのも、その要因ですかね。
 それにしても、心を癒すために滞在していた村で再び殺人事件に巡り合ってしまうマリアは可哀想ですね。でも、この事件を通して成長していくマリアの姿には思わず応援しちゃいますね。

 そして、なんでアリスはこんな時にそばにいないんだ!!とはいってもこの村とそアリスたちがいる隣村を結ぶ川が台風で断絶してしまったからしょうがないんですけどね。おかげで江神さんを含めた三角関係が起きるんじゃないかと、僕はやきもきしましたよ。
 そうはいっても、今まではどちらかというとロマンス担当だったアリスが、この作品では隣村で起きた殺人事件を解決する探偵の役割を務めます(ああ、マリアに見せたかったぞ、このアリスの勇姿を)。

 全身に降りかけられた香水、被害者に当てられた手紙、切断された指、すべての謎がそれぞれの独立した村で起こる殺人を解決すパスワードであると同時に、お互いの事件を結びついてるという筋立ては、違和感なく組み立てられてて、作者の非凡さを伺えます。同時に3度も挿入される「読者への挑戦状」がやる気を感じさせますね♪

 しかし、江神さんの抱えてるトラウマはキツイなあ。自分の死を予言されてるんだもんね。犯人と対峙した彼が最後に取る選択は、結構いろんな小説でみかけるものですが、彼のトラウマのせいか他のものとはまた違った余韻が残りますね。
でも事件が解決して、いよいよ隣村に戻れる際にマリアに言った「アリスが一番おまえにあいたがっとたぞ」という台詞に江神さんの優しさが表れているし、それに答える「私もアリスに一番会いたった」というマリアの答えも素敵です♪

 やっぱり僕の中では、有栖川さんの面白さはストーリーの妙なのだと感じちゃいます。だからトリック重視の火村シリーズがあんまり好きになれないのかなあ。

 ドラマ版『双頭の悪魔』の江神=香川照之、マリア=渡辺満里奈っていうキャストも今考えるとすごいなあ~。


(2005.11.30 ブログ再録)