家族狩り〈5部作〉 著者:天童荒太

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高校教師・巣藤浚介は、恋人と家庭をつくることに強い抵抗を感じていた。馬見原光毅刑事は、ある母子との旅の終わりに、心の疼きを抱いた。児童心理に携わる氷崎游子は、虐待される女児に胸を痛めていた。女子高生による傷害事件が運命の出会いを生み、悲劇の奥底につづく長き階段が姿を現す。山本賞受賞作の構想をもとに、歳月をかけて書き下ろされた入魂の巨編が、いま幕を開ける。
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 この作品は96年の山本周五郎賞受賞作の単行本化ですが、実は単行本化にあたって、同じ登場人物・プロットを使用して、全編書き直しを行った異例の作品です。もともとの作品のテーマが、家庭内暴力を扱ったものであり、96年の初版から8年の歳月が過ぎ、その中でいろいろな事件が起きました。著者の中でも、初版当時とは少しづつ考え方が変わっていった中で、改めてこの問題を捉えていこう、という意図があったそうです。

 全編書き直しで、もはやまったく別の小説といっていいくらい変更されています。とはいっても、同一プロットという事もあり、基本的な物は変わっていません。物語の軸、ある少年が家族を殺し自らも自殺するという残酷な事件を追う刑事たちの葛藤、少年の通っていた学校の教師と児童相談施設の女性職員の対立、ある不登校少女の苦悩、民間のボライティア相談施設の女性、といった多数の軸が複雑に絡みながら、家族の崩壊というものを浮かび上がらせるといった内容です。

 前作も当時読んでいたのですが、それと比較すると殺害シーンの残酷描写が控えめになり、むしろ登場人物達の心の葛藤に重きが置かれている感じがしました。そこには解決の方法が提示されません。あくまでも個人個人、そしてその個人の集団が形成する家族というものの有り方が、いかに複雑になったか。そこには社会の変化に伴う個人の責任能力の増大や、それにともなう人間関係の希薄化といったものによって左右される、人間としての弱さが、著者の中で大きなテーマになってるからでしょう。それにより、読み手も、より一層考える事が必要になってきてるのではないでしょうか。

 今、あえてこの本を出版した著者の意気込みが十分に伝わってくる社会派小説だと思いますし、是非前作と合わせて一読することをお勧めします。
 なお、著者の他の作品でドラマ化された「永遠の仔」も、機会があれば読んでみて下さい。