邦画『理由』 監督:大林宣彦

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51%2B0xBQhtcL.jpg

 

 さて、大林宣彦です。僕のマイ・フェイバリット監督であり、その作品群はノスタルジィと実験性(?)に溢れた愛を語る作品が多い、結構人によって好き嫌いの分かれる監督です。
そして今回、宮部みゆき直木賞受賞作『理由』を撮っちゃいました。数ある宮部作品の中でも、もっとも映像化しにくいといわれた、しかも正統派ミステリーを何故大林が?大丈夫なのか?この話を聞いたとき、僕の頭の中には同じ著者の作品を映画化した壮絶なる失敗作『模倣犯』が浮かびましたね。

 

 そんな大いなる不安と一抹の希望を胸に秘め、いざ鑑賞。上映時間が2時間40分、さらに不安が増す中いよいよ映画がスタート!!

 大林監督、やってくれました。そこにあったなのは間違いなく大林映画でありながらも、原作のミステリーテイストをそのまま映像化した、非常にレベルの高い作品でした。

 原作はルポルタージュ形式で、総勢100人を超える登場人物のインタビューから、東京都荒川の高層マンションで起こった一家殺害事件の真実を浮かび上がらせる構成をとっており、主役が存在しません。この点が、映像化するに当たっての最大の障害になるであろうというのは想像出来ました。

 ふつうであれば、登場人物の一人を主役に置き換えたり、または人数を削ったり、複数の人物を合わせたオリジナルの人格を用意して、映像用に再構築する方法が考えられますが、監督はあえて原作を限りなく忠実に映画しています。それは登場人物の八割がカメラに目線を向けての1人芝居を繰り広げるといった撮影法にあらわれています。この手法、最初は正直違和感を感じました。

 しかし映画が進むにつれ、違和感は消えていき、物語の世界に引き込まれていきます。ノンフィクション的な映画とはいえ、それ自体はフィクションの映画で、ここまで徹底した映画は滅多に無いんじゃないかなあ。正直登場人物が多すぎて時間軸を追いづらくなる部分もあるけど、見終わった時にはきちんと理解が出来るし、この映像作品としての処理は、まさに職人芸だと思います。

 あえて、難点を。大林さん独特のチープなCGは相変わらずどうなんだ?という感じで余計な気はします。また、後半のシーンで、ドキュメンタリーの撮影風景をさらにその外側から描写するシーンがありましたが、あえてこの手法を取らなくても。ちょっと浮いた感じが残りました。

 とにかく、誰もが面白いエンタメ映画かと言えば違いますし、好みが分かれるかもしれませんが、人によっては監督の最高傑作という評価をするかもしれない、それぐらい見応えのある映画だと思います。原作の宮部さんも『模倣犯』にはノーコメントでしたが、今作は絶賛してたし。なにより、この映画、大林監督じゃなければ撮れない、そう思えるぐらい大林映画だったのがファンとして嬉しかった。