
記録的な寒波に襲われた東京で、原因不明の感染症が発生。死亡者が出る事態となり、厚生労働省の降旗一郎は、国立感染症研究所の都築裕博士とともに原因究明にあたる。さらに六本木で女性が無数の吸血ヒルに襲われ、死亡するという事件も勃発。未曾有の事態に翻弄される降旗たちは解決の糸口を見つけられずにいた。同じ頃、東京メトロの地下構内で複数の切断死体が発見された。警察は監視カメラの映像を消し失踪した職員を大量殺人の容疑者として追い始める。次々と前代未聞の事態が発生しパニック状態の都民に、狂犬病ウイルスに感染し死亡する者が続出し始めた。いったい、極寒の東京で何が起きているのか……。 Amazonより
安生正さんの本は『生存者ゼロ』に続いて2冊め。『生存者ゼロ』と同様こちらも日本を舞台にしたパニック小説といった趣き。『生存者ゼロ』は、荒削りながらいい意味でB級パニック映画テイストの読ませる小説でしたが、著作を重ねた今作はさらに物語の運び方が洗練されているという印象。
富士樹海で発見された腐乱死体、港区で集団発生した原因不明の病気、地下鉄で大量に発生する鼠、六本木の木から落ちてきた大量のヒルによる吸血死事件・・。冒頭からいかにもいかがわしげ(褒めてます)なネタがてんこ盛り。派手さグレードアップな展開は興味をそそります。
一見バラバラに起こる事象ながら、微妙にリンクしていてもおかしくなさそうなネタの配置が上手いです。バラバラな物語が最後に収斂する小説も面白いですが、こういったテイストの小説では、同時進行よりも少しずつリンクしながら物語が進んでいく方が面白いと思います。さらには殺されたと思われるバラバラ死体まで登場してきて、単純な話に見えるのに物語の全貌が見えないところもサスペンスとして盛り上げてくれます。
そんな未曾有の事態に対応する政府、研究者側も一枚岩じゃありません。『生存者ゼロ』でも描かれていた立場による確執は今回も至る所で描かれています。実際にこんな事態になったとして、そこまで自分の立場に拘るのか、という気がしますが、それでも事件が収束しなかった時の自己保身の姿勢は現在の政治の情勢を見てると本当にリアルなのかもしれませんし、作者の描きたい部分、肝はおそらくこの部分じゃないでしょうか。
今作を含めてまだ2作つしか読んでませんが、設定自体はB級で荒唐無稽さがありますが、いってしまえばそれは想像外の出来事という事。東日本大震災後の福島原発を巡る一連の動きも、「想定外」という言葉が免罪符のように使われているような気がします。
もちろん実際に起きた津波の規模であったり原発事故自体が本当に想定外だっただろうと思うし、そこについてなぜ想像しなかったのか、というのは一概に責めるべきものではないと思います。問題は、その事態を踏まえて、どこまで想像の域を広げられるかというところであって、それが未来を考えていくことに繋がると思います。
もちろん実際に起きた津波の規模であったり原発事故自体が本当に想定外だっただろうと思うし、そこについてなぜ想像しなかったのか、というのは一概に責めるべきものではないと思います。問題は、その事態を踏まえて、どこまで想像の域を広げられるかというところであって、それが未来を考えていくことに繋がると思います。
そういった意味で、作中起こる様々な事態に対し対処療法的な対応で物事を収めようとするだけで、そこから想像を広げることをしない(広げて何も起こらなかった場合の責任の回避)官僚・政治家の描き方は、現在のリアル世界の縮図として考えさせられます。そう考えると、タイトルに込められた思いも色々と考えさせられます。
そんな矮小な存在としての人間の対比として、『生存者ゼロ』でも登場した神の代弁者ごときキャラクターが今回も登場。確かにそういった存在はこの手のパニック物にはつきものといっていいですが、あまりにキャラが濃すぎて、神の代弁者というよりもマッドサイエンティストにしかみえず、物語の設定としてこのポジションのキャラにそれを持たせなくても、という気がしました。
また、最後のクライマックスについてはパニック物の域を越えてSF的になってしまったような性急さはありましたが、これだけの事態の中人間に出来ることは本当に無いのかもしれないかもしれないですね。『生存者ゼロ』から、確実にストーリーテリングが向上してますし、この分野においては外せない作家さんになってきてるのかな、と思います。
| 採点 | ☆3.6 |