『未明の悪夢』(☆3.2) 著者:谺健二

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【第八回鮎川哲也賞受賞作】 一九九五年初頭、突如関西を襲った天変地異。阿鼻地獄のさなかで続発する不可解な事件。犯人の意図は何か? 日常生活にも事欠きながら崩壊した街を駆ける私立探偵有希真一、そして占い師雪御所圭子が手にする真相は?

Amazon紹介より

 

あの阪神大震災の中で起こる連続殺人事件を解決するという、力技な小説です。
しかも、震災の描き方がおざなりにではなくかなり深く突っ込んで書かれているあたりは、読んでて結構ダークな気分になってしまいます。

倒壊したマンションから消えた人物、突然現れた謎の死体、複雑に絡み合う人間関係。刊行当時、島田荘司の正統なる後継者という売り文句も一部あったなもうなずけるぐらい、近い雰囲気があります。
ただ島田氏の著作が現実の事件の役割が作品のエッセンスの一つに近いのに対し、谺さん(最初見たときは読めなかった)はそれ自体が作品の中心の構造にしているだけあって、根底にある作品の方向性は明らかに違うと思いますけどね。

とにかく、二人の探偵も被災してどこか精神に以上をきたしている状態なので、読んでてどこか居心地の悪さを感じます。とにかく作者も被災者であるせいか、描写の一つ一つが痛いほど生々しい。いろんな人物の視点で物語が進んでいくのですが、一番不安定なのが探偵役の雪御所さんなのが、事件そのものを歪んでみさせてくれますね。

事件のトリックそのものはどれもたいしたものはありません。その部分では本家島田氏と較べるとかなり見劣りはします。
むしろ、犯人(のみならず登場人物のほとんど)が異常事態の発生で、簡単に一線を踏み外してしまうあたりのリアリティをどこまで感じられるかで、かなり評判の分かれそうな作品ですね。

それにしても、この作品以降も「神戸児童連続殺傷事件」をあつかったものや、探偵が宇宙人の小説など問題作を発表し続ける作者の思考が一番気になるなあ。

(2005.11.25 ブログ再録)