『アリバイ地獄』(☆2.3) 著者:斎藤栄

 
仙台市内の不動産会社営業部長・長谷川勇次とその妻・正子の惨殺死体が発見された。容疑者として、日頃から仲が悪く、往き来が殆どないという、横浜に住む勇次の兄・竜一が浮かぶが、竜一には鉄壁のアリバイがあった。事件の日の夕方、自宅近くで起きたガケ崩れで生き埋めになり、救出されたあと、ただちに入院したというのだ。
竜一が犯人であるなら、凶行のあと、その時間に横浜へは戻れない。宮城県警の児玉刑事は、竜一のアリバイ崩しに挑むが・・・。
表題作他、将棋ミステリーの秀作「王手飛車の女」等、5篇収録。

ノベルス版あらすじより

再び斎藤栄さんです。
以前cuttyさんから命令(?)されて読んだ『日美子の唱歌(ソング)殺人』で、かなり突っ込ませて頂き、もう二度と読まないだろうと思っていた(ちなみに昨年の個人的ワースト3位にランクイン・笑)のですが、某ミステリサイトでバカミスと紹介されていたので、ついつい手に取ってしまいました。

いやあ、文章は相変わらずの謎なセンスが炸裂しております。
たとえば、最初の短編に登場する部長刑事をボースン(英語?)と表記したり、なぜか妙なカタカナ変換が。
例をとって見ると、

「古めかしくて、ワリカシ質素な建物ね。」
「始末されるオソレがある。」
「カクニンですか?」

などの無意味、というよりダサい使い方。前に読んだ作品の「・・・・・・」の使い方と同じくらい気になります。
ちなみに場所によってはそれに傍点がうってあるという念の入れ様。ちなみにまったく重要ではございませんので悪しからず。

で、全体の感想としては、バカミスというよりアホミスというかなんというか。
脱力系ではあるんですけど、あまり笑えないというかなんというか。
とりあえず、一番気になるのは斎藤さんがどこまで本気で書いてるのかということ。
著者紹介には「本格推理では他の追随を許さない」って書かれてたり、しかも収録作にはまったく関係ない沖縄取材の事が書かれているのがなんともイイ味(笑)。

ま、とりあえずそれぞれの寸評をいきます。
結構ネタバレしておりますが、そもそもこの本を手に取る人はあまりいない気が(笑)。


『三重塔の力学』

<あらすじ>横浜にある風光明媚な公園内にある三重塔。この下で十五歳の少女が全裸で死亡していた。死因は扼殺。一旦、塔に釣り下げられ、更にその後、その紐が切断されていた。また被害者は京都の学生と身許が分かる証拠が近くにあった。被害者を養育していた叔母が疑われるが、彼女には鉄壁のアリバイが。 

収録作の中では比較的まとも。でも犯人、なにもそこまでせんでももっとごまかしようがあるだろうというささいなツッコミが。
アリバイトリックに関しても、もっと簡単な方法が。。。

『王手飛車の女』

<あらすじ>インチキ白蟻駆除会社の若い社員と、年上の女事務員が恋に落ちた。しかしその事務員は社長の妾でもあり、二人は駆け落ちを考えていたが、男が仕事先に出てから戻らない。どうやら事件に巻き込まれたらしい、とその家に出向くと床下には……。

記事冒頭の紹介に「将棋ミステリーの傑作」と書いてあるが、これのどこが将棋ミステリーなのか謎。
だって女事務員が将棋の戦法になぞらえた陵辱を受ける(しかもどこがなぞらえてるのかが微妙)のと、恋人がお互いの名前を書いた駒を持ってるだけ。
つ~か、中飛車(将棋の戦法)だの穴熊(将棋の布陣)だの、どんなSMプレイやねん^^;;
内容的にはまさに乱歩の「白髪鬼」を彷彿とさせる復讐物でした。それにしても復讐の仕方がエグいというか、バカというか。。。


『アリバイ地獄』

<あらすじ>仙台で日中、夫婦が襲われて惨殺された。一見、空き巣狙いの犯行のように思われたが、被害者に財産があり仲の悪い弟がその財産を相続することから容疑者に浮上。しかし、彼は犯行時間の直後に崖崩れに巻き込まれるというアリバイがあった……。 

まず「アリバイを作るためにそこまでやるか!!」とツッコミたくなること請合いです。
だって「夫が殺人をしている間に妻が自宅の裏の崖を爆破して崖崩れを起こす。こっそりと戻ってきた夫はさも崖崩れに巻き込まれたフリをする為に自ら生き埋めに。結果夫は仮死状態(笑)。なんとか息を吹き返したものの、犯行途中に狂犬病に罹った被害者の飼い犬(笑)に噛まれて狂犬病になってしまい、そのせいで犯行が露呈」ですからね。
まあ味わいがあるといえばあるのか?


『怨念の孤島』

<あらすじ>米国兵との混血のために虐げられてきた少年が、少女と共に瀬戸内の無人島へ。しかし足跡のない砂浜のボートのなかで、中年男が背中を刺されて死亡しているのを発見。折良くやって来た警察に追われる身となる。 

冒頭社会に怒りを覚えたカップルが無人島に逃避行するのでが、目的がその島に自分達が作った旗を立てるというのがスゴイ。しかも無人島といっても瀬戸内海(笑)。
そこで起こった足跡の無い殺人のトリックがまたすごいです。
なにしろ不可能犯罪を起こしたのが、たんに不可能を可能に出来る人物が実行したっていうオチですから。
実は男は自殺。ヨガかなにかをマスターしているので背中を刺す事が可能というだけ(笑)。


『水上遊歩』

<あらすじ>大学助教授が女子生徒に誘われて夜中のキャンパスにて張り込み。最近、幽霊が水上を歩くのだという。確かに謎の人物が池の水面を歩いているのを目撃、しかし同時に悲鳴が聞こえ、駆け付けると女子生徒があられもない格好で殺されているのを発見する。 

何がすごいって、水上を歩く幽霊があまり関係無いというところ。
いや、関係なくはないですが幽霊じゃなくても問題なし。
さらには死体に施された装飾が、「容疑者を誤認させる為」ではなく「容疑者への呪い」ですから。


『屍体と宝石』

<あらすじ>宝石屋を騙して殺害、宝石を奪い取った挙げ句に、死体を車の解体処理場で潰してしまえば犯人は分からないはず、という大胆な犯行。若い恋人二人と、元同僚と三人が組むが、事件は意外な方向へ。 

いわゆる倒叙形式の物語ながら、ページ数が少ないせいかオチが見え見えなのがな~。
それにしても自動車に閉じ込めた死体を車ごと溶接プレスするという処理方法が豪快で嫌いじゃないかも(笑)。


全体としてとにかくページ数が少ない割にはストレート(?)なミステリばかりなので、意外性はゼロ。
とにかくおバカなトリックなどを楽しめるかどうかが味噌ですな。
ただ最近流行り(?)の蘇部さんなどのBミスが、確信犯的に笑わせているのに対し、どうみても本気で書いてBになってるので、なんだか物悲しく感じるかも。
こんなレビューで興味がわいたなら、手に取ってみてください。読めない程じゃありませんから(笑)。



採点  2.3