『アリバイ崩し承ります』(☆2.6) 著者:大山誠一郎

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時を戻すことができました。アリバイは、崩れました――。
美谷時計店には、「時計修理承ります」だけでなく「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。
「時計にまつわるご依頼は何でも承る」のだという。
難事件に頭を悩ませる捜査一課の新米刑事は、アリバイ崩しを依頼する。
ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ、山荘の時計台で起きた殺人のアリバイ……7つの事件や謎に、店主の美谷時乃が挑む。
あなたはこの謎を解き明かせるか?

Amazonより

 いわゆる情報だけで事件の謎を解く安楽椅子探偵物。
 「密室収集家」「赤い博物館」と上質の短編集を送り出してきた大山さんだけに期待も高かったのですが、正直微妙。
 作品の見せ場として、探偵が事件の真相に気づく為のキーワードであったり、魅力的な謎など作品を楽しませるいろいろな要素があると思いますが、この短編集は主役でアリバイトリックについて、面白みに欠けていたように感じます。

 そもそも今の時代、アリバイトリックそのものだけで与えるのはなかなか困難なので、アリバイトリックを包み込む物語としての面白さも大切だと思うのですが、そこの部分が弱いので、結果としてアリバイトリックの謎解きが輝かなかったと思います。
 「赤い博物館」ではトリックそのものよりもそのトリックを成立させるための物語の魅力も高く、その相乗効果が読み応えに繋がっていたと思います。逆に言えば、そこが弱いとミステリを作り出すための単なるパズルの設定になります。

 これまでの短編集に比べると物語部分が脆弱で、探偵役を務める時乃が事件の謎に気づく部分のキーワードの弱さも相まって、ゆるすぎる短編集になってしまったなぁ、というのが個人的な感想です。

 以下は各短編の感想。

「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」
マンションで発見された大学教授の他殺体。容疑者の元夫には居酒屋で飲んでいたというアリバイが。

 なぜ容疑者が塩饅頭を断ったあとにケーキを食べたのか?という些細な謎からアリバイの真相が導き出されますが、その理由がなかなかに奇天烈かつ異質で、逆に時乃はよく情報だけでこれに気づけたなと。アリバイトリックよりもむしろこの殺人事件の裏にある思いのぶぶんが肝なんだろうと思いますが、やっぱりトリックが印象に残りすぎて物語の核心がぼやけたようにおもいました。


「時計屋探偵と凶器のアリバイ」
 住宅街で発見された射殺体。使用された拳銃が衆人環視の郵便ポストから発見されたため、容疑者のアリバイが成立することに。

 郵便ポストに銃が投函されて、それが監視されていた為アリバイが成立ところは面白い。ただ、その面白さを解体してあらわれる真相部分に難が。トリックそのものが比較的珍しくないものは別にあれだけれど、どこか根本的に瑕疵がある気がするというか、鑑識も含めて警察が絶対だまされない気がしてしょうがない^^;;


「時計屋探偵と死者のアリバイ」
 交通事故にあった男は、自らの殺人を告白し死亡する。男の告白通り死体は発見されるが、同時に男にアリバイがある事が発覚する。

 犯人の自供があるにも係わらずアリバイが存在してしまうというユニークな設定。男の遺した言葉と些細な点から犯人の秘密を暴き、そこからなぜアリバイができたのか展開はユーモアミステリ的で面白いけど、謎のベースの部分の物語がやや浮き気味なのが勿体無い。


「時計屋探偵と失われたアリバイ」
 マンションで発見された女性の死体。容疑者の妹にはアリバイが無いが、どうしても犯人とは思えない。

 アリバイを崩すのではなくアリバイを見つけるという設定は面白い発想だけど、慈済には他の人のアリバイを崩しているわけで、両者の違いはどこなんだというところはピンと来ないのが残念。動機の部分も提示された情報だけで推理するのは強引かなぁ。


「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」
 時乃が子供の頃、祖父から出題されたアリバイ問題。祖父はいったいどうやって2つの場所にあらわれたのか。

 収録作の中で唯一過去の物語。解かせるために子供相手に仕掛けたトリックということで、そのトリックの微笑ましさも含めて、作品としてのバランスは一番いいと思う。逆をいえば、他の短編はアリバイ崩し承り業という設定と主人公のキャラがうまく噛み合ってないのかもしれない。
 内容的にもこれが一番最後に収録されててもいいのでは、と思いましたが。


「時計屋探偵と山荘のアリバイ」
 僕が山荘で巻き込まれた殺人事件。唯一アリバイのない少年について、僕は犯人とは思えない。
 犯人が分からないまま少年以外にも犯行可能かどうかを検証するながれは「アリバイ崩し」に似てます。その部分に関するロジックそのものは丁寧ですが、現場の状況から考えて時乃が指摘した可能性が最初から除外されているのは不自然に感じました。


「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」
 1年前に起きた事件の容疑者には、その時間一日限定の配信音楽を友人の前でダウンロードしていた。

 うーん、砂上の楼閣というか、狙ったところは面白いけど、このトリックに関しては色々とツッコミどころがあるというか、根本的にアリバイトリックとして成り立っていないような・・・。



採点  ☆2.6