『双月城の惨劇』(☆3.3) 著者:加賀美雅之



パリ警察が誇る名予審判事、シャルル・ベルトラン。悪魔的推理力を誇る彼に、ライン川流域の古城『双月城』で起きたある事件の捜査依頼が。不気味な伝説を持つこの城はカレンとマリア、双子の姉妹が城主をつとめていた。ベルトランが城を訪ねる直前、密室であった城内の『満月の部屋』で、首と両手首を切り取られた無惨な死体が発見された!死体はカレンかマリア、どちらかのもの…。ベルトランの好敵手、ベルリン警察のストロハイム男爵も登場、熾烈な推理合戦のなか、新たな惨劇が。
yahoo紹介より

発売当初(2002年)にリアルタイムで読んだこの本。でも内容はさっぱり覚えてません。
とりあえず最新刊を読む前に復習のつもりで再読です。

それにしても、まずは二階堂さんの熱すぎる推薦文が堪りません(笑)。

本格推理小説ファンは、謎と論理とトリックをいとも簡単に弄ぶ大魔術師の出現を長いこと待ち続けていた。その待望のときが、ついに訪れたのである。
『双月城の惨劇』によって、本格推理小説界は本当の意味での新世紀を迎え、作家も読者も新たな世界を臨む段階に入った。
何年後かに歴史を振り返った時、この作品は重要な指標として、敢然とそこに存在しているだろう。
つまりこの本を読むあなたは、ミステリー史上における大偉業の、その貴重な証言者となるのだ。

巻末解説から抜粋された宣伝文をそのまま、引用させていただきました。
ねっ、ここまで言われたら期待しますよね~。

でも、そんなにいいかぁこれ???

いや、元々カーのバンコラン物の偽作として書かれていた物をオリジナル探偵物に変更したというだけあって、「不可能犯罪、密室殺人、殺人鬼、伝説、亡霊、名探偵、双子の美女、遺産相続、謎、秘密、古城、一族の確執、呪いといった本格推理小説ならではの燦然と輝く宝物の数々―(解説より抜粋)」が散りばめられています。
その中でもやはりカーの匂いが濃厚(って言ったって私もそんなにカー読んでませんが)。
カー命の二階堂さんからしたら堪らない作品だということは理解できます

清涼院流水登場以降異質に膨張し続けるミステリ界において、まさに古典愛に溢れた古き懐かしき匂いを持った小説というのはある意味新鮮であり、これを書いてくれた事自体は評価できるし、犯人特定までに至る伏線が分かりやすすぎるという弱点があるものの、小道具の大げさなまでの使い方は嫌いじゃありません。
特に最初の密室殺人のトリックなんかは、かなり無茶なものですが伝承や古城の歴史という力技でこれも有りかなあ~と思ってしまいます。
ある意味美しさを兼ね備えているといってもいいかもしれません。死体の扱い方もなかなかいいと思います。

ただ、第2の密室のトリックはちょっとNGかな~と。
実際犯行に使われたトリックなんかは、もう限りなくBミス、というか上手く言ったのが不思議なくらいの際物(確率の問題に触れる登場人物がいなかったのが不思議)。
まあ、そもそもこの雰囲気の小説のトリックの可能不可能を問うてもあまり意味は無いかもしれないし、ようは見せ方の問題だとしても、実際事件の真相が明らかになると別にこのトリックを使わなくても、もっと簡単に同じ状況を作り出せてしまうんですよね~。
ううむ、作者は書いててそれに気づかなかったのか?

それにしても、この作品に登場する警察や容疑者達のバカっぷりはどうなんでしょう(笑)。
ミステリのお約束(?)として警察の無能っぷりというのはありますが、捜査や人員配置が杜撰です。
城の中をくまなく調査したといってるのに、まだ行ったことが無い部屋(別に隠し部屋ではない)があったり、いろんなところで血痕を見落としたり・・・。
確かに警察がある程度無能でないと探偵小説は成り立ちにくいという側面はあるのですが、それをうま~く隠す(笑)のが著者の力量。
長編デビュー作という部分での若さでしょうか。

そしてワトソン役のパット君、むやみにベルトランを誉め過ぎです。
彼が誉めるたびにベルトランはそこまで偉いか?という疑問が沸々と・・・(笑)。
だいたい数ページ前で驚愕した現象をまるで初めて気づいたかのようにまた驚愕してくれる物忘れっぷりはたまりません。
名探偵と記述者の役割において、記述者はただむやみに探偵を誉めればいいだけではないのではないかと。
適度な賛辞と愛すべき凡人っぷりこそが名探偵を引き立たせるんだと思うんですよね。
かの名探偵ホームズも、ワトソンが愛すべき凡人だからこそホームズがあそこまで賛美されるのではないかと思っております。
そういえば、篠田秀幸氏の著作でも同様の感想を抱くよな~(しかも毎回^^;;;)

ま、いろいろと批判的なことを書きましたが、やはりこういう「新しい古典ミステリ」の書き手が少ない以上加賀美さんにはもっともっと頑張って欲しいと思います。
こういったタイプの小説に対する著者の愛情は伝わってくるだけに、二階堂さんの過剰な賛辞(笑)に答えてくださいな♪