『ビニ本団長と鉄板句女』第十八回「そしてアーニスは語る・・・」

第十七回はこちら

パシッ!!
あー、女将がアーニスを叩いた!親にも叩かれたことないのにぃ!

「なぜ、なぜこんなこと‥‥」
女将の悲痛な声がティッシュの空箱本棚の部屋に響く。


はずみで眼鏡を落としたアーニスは、哀しげに目を伏せ、ゆっくりと語り始める。

ビニ本団長と鉄板句女』 第十八回「そしてアーニスは語る・・・」


「申し訳ないです、みなさん・・・・。でも、これには訳があるんです。」

今にも泣き出しそうなアーニス。ああ、美形の泣き顔はなんて美しいんでしょう。
おもわずくらっとくる鉄板句女。
しかし女将をはじめとしたみんなの緊張感に姿勢を正す。

「実は・・・私は昔ここにいるちいらんばださんと共に、ある本の制作に携わっていたのです。
そう、伝説のビニ本作りです・・・。」

えっ、アーニスさんが伝説のビニ本を!?じゃあ、最初からその正体を知ってたってこと?
あまりに予想外の告白に一同唖然とする。
ビニ本団長が思わずアーニスに詰め寄ろうとするが、cuttyさんのグラサン越しの死線(視線?)を感じて踏みとどまる。

「伝説のビニ本。男なら誰もが憧れる仕事、みなさんにも分かってもらえると思います、この偉大な仕事を。
私もその一人でした。昼夜を問わず本作りに邁進していたのです。
それはとっても幸福な時間でした。
いや時間だったというべきでしょうか。」

そこまで一気に語ったアーニスの目からついに涙が零れ落ちる。

「でも・・・実際に完成した伝説のビニ本を見た時に私には分かってしまったのです。これは世に出すべき本ではないと・・・。
だからちいらんばださんに訴えました。この本の出版を差し止めるべきだと。
しかしすでに遅かったのです。ちいらんばださんは伝説のビニ本の魔力に捉われてしまっていたのです。
私の心は彼には届きませんでした。
いったい私はどうするべきなのか、死ぬほど悩みましたよ。
そしてだした結論・・・それは印刷所の爆破とデータの抹消でした。
非合法とはいえ、もう私にはそれしか方法が無かった・・・。」

ば、爆破!?そ、そんなことをしたのアーニスさん!!
で、伝説のビニ本ってそんなにやばい本だったの!?しかも魔力つき・・・

「そして作戦は無事決行されました。
伝説のビニ本、そしてそのデータはすべて火の海に消えました。
そして私はちいらんばださんの元を去ったのです。」

えっ、じゃあ伝説のビニ本ってもうないの?そうしたら、ビニ本団長の苦労が水の泡だよね。。。
あれ、でもちいらんばださん、伝説のビニ本を手に入れろみたいなこと言ってなかったっけ?
おもわず疑問の表情を浮かべた鉄板句女を、アーニスが見つめる。

「そう、めぽさん。伝説のビニ本はまだ残っていたのです。
いや厳密にはデータだけが残っていたのです。
ちいらんばださんが事前に偽データと入れ替えていたのです。それにきづかづ私は。
ただデータを開くには、私とちいらんばださんがそれぞれパスワードを入れなければいけないようになっているのです。
だからデータの存在を知った時も私は安心していたのです。
しかしそんなには甘くなかった。ちいらんばださんは私を脅迫してきたのです。
もしパスワードを教えなかったら・・・」

教えなかったら?部屋の空気が一気に引き締まる。

「私の大切な梅干に、化学調味料をどさっと入れるというのです!!」

え?そ、それだけ????
いや、アーニスさんにとって梅干は大切なのかもしれないけど、でもまあ1年ぐらい我慢すればいいんじゃないの?
そこまで考えて鉄板句女は気付いた。アーニスの隣に崩れ落ちている女将の顔に苦悩の表情が浮かぶのを・・・。

「お義兄さん・・もしかして、あちきのことを・・・」
「そう・・・私だけの問題だったら我慢すればいいことでした。しかし私の梅干は女将の『おたふく食堂』に卸すとっても大切なものなのです。
女将は私にとってかけがえのない大切な人。そんな彼女を巻き込むわけにはいかなかった・・・。」
「そんな・・・そんな事・・・梅干がなくても・・・あちきは構わなかったのに・・・」

そう叫ぶと、女将は床に突っ伏し嗚咽を漏らし始めた。
泣き声は部屋を満たし、その場にいた仲間もまたもらい泣きをし始めた・・・。

「私は従うしかありませんでした。ちいらんばださんにパスワードを教え、出版作業を黙認しました。
しかし、事態はそれだけでは済まなかったです。ちいらんばださんは私に本楽堂協会に入会し、伝説のビニ本を狙う輩のスパイをしろといいました。
もし逆らえば、いま私にとって唯一心を安らげる場所、「katty's cafe」にあるお酒を全部牛乳にすりかえると言うのです!!」

シュッ。

突然空気を切り裂く音が聞こえた。kattyさんがかけていたグラサンをまるでカッターのようにちいらんばだに投げつけたのだ。
さらに反対側からはマダムが再び髪の毛を伸ばし、その先に純朴さんを結わえ振り子のようにちいらんばだを狙う。
しかし、
ちいらんばだは絶妙のムーンウォークでそれをかわした。

「やるわね、モト冬樹の「モト・ズラッガー」以上といわれた私のグラサンスラッガーと、マダム&純朴の巻き髪アタックを同時にかわすなんて。」
「ふふふ、無駄ですよ。ここは私のテリトリー。すべての攻撃を無にする磁場が働いているのですから・・・。」

お互い睨みあう店長とちいらんばだ。
と、野いちごジャム氏がちいらんばだの耳元でなにか囁く。

「もう・・・そんな時間ですか。」

そうつぶやくと、ちいらんばだは部屋にいる鉄板句女達を見回し、

「そろそろ予選の結果が発表のようですよ。さっきもいいましたが伝説のビニ本を手に入れたければ、まずは川柳大会で優勝することですね。
みなさんが決戦投票に進むことをお祈りしておりますよ~♪」

といいのこし、ムーンウォーク&ランバダで部屋の外にでる。
それを確認した野いちごジャムが何かのボタンを押す。

「い、いけないですぅ~~~~~!!」

純朴さんが叫ぶ!!しかし少しばかり遅かった。
とつぜん、壁際のティッシュ箱本棚の部分を残し、部屋の床が真っ二つに割れたのだ!!
えっ、なんで武道館の控え室にこんな仕掛けがあるの~~~~~~~~~~~~~~。
鉄板句女の心の叫びもむなしく、部屋に残っていたメンバーは全員下に落ちていく・・・・。


それからどれくらい時間がたったのか・・・。
鉄板句女はガヤガヤと騒がしい音で目を覚ます。
あたりを見回すと、どうやらそこは武道館のアリーナ席のようだ。
ど、どうして床から落ちるとここに出てくるわけ?
まさか、四次元ポケットでワープ?
混乱する鉄板句女。

その時、武道館にあのメロディーが流れ始める。

た~ら~らららら~、ららららららららら~らら~♪

そして音楽にかぶさるようにアナウンスが。

「ただいまより、第八回日本本楽堂協会川柳大賞の予選結果を発表いたします・・・」

次回、いよいよ予選結果発表!!
はたして彼らは決勝に残れるのか???



                                            (第十九回へつづく)

※店の名前、個人名などはほぼフィクションです(笑)
ちいらばさんは本当はとっても優しい人ですよ~^^;;
 そして『ヅラ刑事』をご存知ない方はコチラへ→http://www.duradeka.com/