『ビニ本団長と鉄板句女』第二十回「ちいらんばだの策略」

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 Katty's Cafeの常連客たちは、川柳大賞の称号に目が眩んで、
景品である『伝説のビニ本』のことはすっかり忘れてしまったらしい。

 いよいよ、決選進出句が発表された。Katty's Cafeの常連客たちは、伝説のビニ本を手に入れられるのか?そして、川柳大賞の行方は‥?

ビニ本団長と鉄板句女』 第二十回「ちいらんばだの策略」


結果発表までしばし休憩。
katty's cafeの常連達はそれぞれ思い思いの時間を過ごしている。
店長はちいらんばだに投げつけたサングラスを必死に探しているし、マダムは謎の巻き上げヘアの手入れに余念が無い。
まぁまぁはもう投句が締め切られたというのに、暴走した川柳マシーンの如く句を読み続けている。
純朴さんは金儲け組の手助け(もしかして売り上げに貢献?)しに行ったし・・・。
その中でなぜか貧ぼっちゃまの格好にチェンジしたアーニスを慰める女将。(でもあざらし)の姿が涙を誘う。。。

やっぱり、最後に力になるのは家族よね。
つくづくそれを感じた鉄板句女の脳裏に再び、愛する夫と子供の姿が浮かび上がる。
ほんのプチ家出だったはずのあの日から一体どれくらい経ったのだろう。
帰らぬ妻の事をあの人は何を思ってるのだろう?必死に探してるのかな?
それとももう捜索願いが出されてるかしら?それにしてはなんの連絡もないし・・・。
大体あのプチ家出以来、携帯鳴らないし。心配してないのかな~。

そう思うと、寂しさが胸をよぎり思わずため息をつく。

「どうしました、めぽさん。ため息なんかついて。」

振り返るとそこにはビニ本団長が立っていた。

「いえ・・・なんでもありません・・・気にしないでください。」

ビニ本団長はじっと鉄板句女の顔を見つめていたが、フッと息一つ吐くと結果発表に向けて大忙しのステージを見る。

「もうすぐすべてが終わります。めぽさんにはいろいろお世話になりました。」
「いえ、そんな・・・。」
「私の個人的な夢のために皆さんがこんなに動いてくださるとは、感謝感激雨あられです。。。」

ふ、古いよ団長・・・・。
思わず脱力する鉄板句女。緊張が緩んだのか、今まで聞こう聞こうと思っていた事をついに聞く。

「団長、そもそもビニ本ってなんですか?」
「………知らなかったんですか!?」
「は、はい・・・聞こうと思ったままタイミングを逃して。」

一瞬の沈黙の後、ガァガァと大きな声で笑いだすビニ本団長。
団長って、外見だけじゃなく笑い声もアヒルっぽいんだ。
いえ、もしかして団長=だんちょう=だちょう=ダチョウ!?まさかアヒルじゃなくてダチョウ!?
またしてもくだらない事を考える鉄板句女。

「・・・です」
「え?あ、すいません、ちょっと別のことを考えてて。もう一度教えてもらえますか?」
「・・・私も男です。同じ事を二度も言いません。」

・・・まったく意味分かんないんだけど。なんで男だったら言わないの?
っていうか、ちょっと考え事してただけじゃない。
あ~あ、またビニ本の事聞きそびれちゃった。こんな時に他の事考えてるなんてドジだなあ、私も。
ドジ・・・ドジッコ・・・・
まずいわ、どんどん純朴さんに近づいてるような気がするんだけど!?
思わずいらない心配をする鉄板句女。いつの間にか頭の中から家族のことが消え、体が軽くなっている。

「はうわ~~~~~~~~~~~~~!!」

突然、武道館に悲鳴が響く!!
あわててそちらの方を見ると、女将に抱えられたアーニスが手を握りしめたまま悶絶している。
拳の間からは潰れた梅干の果肉が食み出している。

「ど、どうしたんですか?」

鉄板句女とビニ本団長は慌てて二人の元に駆け寄り、困惑気味の女将に問う。

「それ、それがアーニスさんの梅干がすり返られているようなのです。」
「ええっ!!でもどうしてそれが偽者だってわかるんですか?」
「アーニスさんの梅干は昔ながらの塩が吹いた大変締まったものなんです。この梅干みたいに果肉が柔らかく膨れていないのです・・・。」
「一体誰がそんな・・・」

3人は顔を見合す。

「どうやら、人質ならぬ梅質をとられてしまったようですね。恐るべきはちいらんばだの用心深さ・・・」

声の方を振り返ると、Mr.Gがしたり顔で立っている。
いや・・・・そんな自信満々に答えなくても、みんなそれぐらい思いついたって・・・。

「でも、なぜ人質・・・じゃなかった梅質を。万が一私達が川柳大会で優勝した時の為ってことですか?」
「おそらくは。そこまでして『伝説のビニ本』を守りたいのでしょう。それにしても、梅干がすり返られているという事はもしかして・・・」
「もしかして・・・」

全員がMr.Gのそばにぐっと近づく。

「みゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

再び武道館に轟く猫の声・・・猫?
顔を見合わせる鉄板句女、ビニ本団長、Mr.G。アーニスを女将に任せ、声のした方へ走り出す。

ようやく声のしたと思われるあたりにたどり着くと、そこには女性が一人倒れていた。
Katty店長だ!!
その横では店長の愛猫、れみー・まるたん・もるつがウイスキーのビンから零れ落ちる白い液体を美味しそうに舐めている。
え?白い?

「やはり、こっちも!!」
「どういうこと?Mr.G!!」
「つまりkatty店長のお酒もすべて牛乳にすり替えられていたのですよ!!それに気付かぬまま飲んでしまった店長が、あまりに健康的な行為に気を失ってしまったのでしょう!!」

ど、どこまで卑怯かつ用心深いの、ちいらんばだ!!
鉄板句女の心の中で怒りの炎が燃え上がる。
その時!!

RuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRu

突然、鉄板句女の携帯電話が着信音を奏で始めた!!


                                            (第二十一回へつづく)

※店の名前、個人名などはほぼフィクションです(笑)
繰り返しますが、ちいらばさんは本当はとっても優しい人ですよ~^^;;