『日出処の天子』 著者:山岸凉子



敏達帝(西暦583年)の時代、政治の中枢では崇仏派の蘇我馬子神道派の物部守屋の二大勢力が争っていた。
馬子の長子、毛人は後宮に迷い込むうちに厩戸王子と巡り合う。その驚くべき才知と不思議な能力に毛人はたちまち王子のとりことなる。
古代日本国家の創始期を舞台に、まったく新しい厩戸王子(のちの聖徳太子)像を描く歴史巨編!!

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日本における最大の偉人の一人でありながら、未だにその存在の多くが歴史の霧の中に埋もれている聖徳太子厩戸王子時代の太子を新解釈を描くわけですが、この新解釈がすごいです。
同性愛、魂と肉体を自由に操る魔性の能力、近親愛。歴史研究者がみたら卒倒しそうな設定ですが、これがまた王子が残した数々の逸話の数々に対する妙な説得性を持たせています。

というより余りに神格化された太子を、神ではなく人間でありただ神秘のモノに対する感知能力が人より異常に優れいてる存在として描く事によって、逆にその存在をより明確化しなおかつ誰にも理解されえない存在の哀しみを読者に強烈に訴えてきます。

特に母親である穴穂部間人媛との関係に悩み、自らを拒絶し孤独を愛さざるを得なかった太子が初めて魂を共有しうる相手毛人に固執する様は、人間よりも人間らしく一般的な同性愛に持たれてしまう忌わしさよりも、むしろ必然の相手でありながら決して結ばれえぬ運命に悲しい共感を覚えてしまいました。

個人的にはこの漫画で描かれる愛という観念が、僕が敬愛している福永武彦の小説群と共通するものがあり、最初から終わりまで一気に読み終わりました。ラストで王子と毛人が選んだそれぞれの道の結末を考えると、これもまた人間の儚さが感じられました。

なによりもこのような世界観と歴史の史実として認識されてる部分をここまで違和感なく融合している事が奇跡であり、傑作だと思います♪