『化物語 上』(☆4.5) 著者:西尾維新

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阿良々木暦を目がけて空から降ってきた女の子・戦場ヶ原ひたぎには、およそ体重と呼べるようなものが、全くと言っていいほど、なかった ―!?台湾から現れた新人イラストレーター、"光の魔術師"ことVOFANと新たにコンビを組み、あの西尾維新が満を持して放つ、これぞ現代の怪異!怪異!怪異。
yahoo紹介より

 

昨年11月創設された講談社の新文芸レーベル『講談社BOX』。

 

 輝く“銀の箱”という、かつてない斬新なパッケージ。そこに入っているのは、日本のポップカルチャーのインデックスともいうべき、小説・まんが・ノンフィクションが渾然一体となった「ハイブリッド・レーベル」。それが“講談社BOX”です。講談社BOXは、世界市場で同時展開する“世界最強の出版レーベル”を目指してスタートします。

講談社HPより

 

わかったようなわからないような創設意義だが、その第1弾に舞城王太郎がいたり清涼院流水がいたり西尾維新がいたりする訳だから、なんとなくの流れは想像できたりするのか?
ちなみに2007年は2作者同時の12ヶ月連続刊行大河小説シリーズが始まるらしい。
それが西尾維新清涼院流水。なぜこの二人なんだ(笑)。
西尾氏は、この小説の上下が2006年11・12月と発表されているし、10月には書き下ろしでは無いものの『零崎軋識の人間ノック 』が発表されている訳で、実に15ヶ月連続刊行、もう異次元の世界。
さらには講談社BOX新人賞まで創設。ちなみにこの賞の名前が

 

 

なぜでしょう、もらっても威張れない気がするのは^^;;
そして2008年の大河第2弾、あの島田荘司が予定されているそうな。まさに暴走企画。。。

 

おっと、まったく関係ない(?)前書きが長くなってしまったところでこの小説の話に。
本当は上下読んでから感想を書くべきだと思うんですが、図書館の返却期限(明日)、さらには予約も入ってるということで上下別々に感想を。
一応連作短編集ですから、それで許してください。

 

いやあ~、個人的には大変面白かったっす。
ネットの紹介文なんかを読んでると、ノベライズを担当した『 xxxHOLiC』の影響か?という意見も見られたのですが、いかんせんノベライズや漫画をまったく読んでいないので内容を知らない僕としては、「西尾版京極夏彦憑き物落とし、ただし関口が吸血鬼い~ちゃんだったみたいな」(葵井巫女子風)ってなところでしょうか。
わかりますか?あ、わかりませんか、そうですか。。。

 

基本的には自虐的少年(元気のいいい~ちゃん?)と怪異に憑りつかれた萌え系少女が織り成す、摩訶不思議な日常怪異譚。
繰り出される言語はまさに「戯言シリーズ」、ただし「うに~」や「ぼく様チャン」は無し。
語られる会話は「やおい」、つまり「ヤマなし、オチなし、意味深長』(←作中に登場する「やおい」の新解釈・笑。最後の1フレーズは西尾氏の造語?)。
この辺の言語が受け入れられるかどうかで、半分ぐらい評価が分かれそう。
でも個人的にはかなりセンスの練られたリズムある会話文だと思うし、かつて王太郎がその文体ゆえに王太郎を確立した領域に、西尾維新も踏み入ってるのではないかとすら思う。意外と数年後には大きな文学賞を取るかもしれないよとすら評価する。

 

あとがきで西尾氏自身が「本書は怪異を主軸に据えた3つの物語―ではありません。とにかく馬鹿げた掛け合いに満ちた楽しげな小説を書きたかった。」と語る通り、会話のセンスや文体の好みをクリアできたなら、サクッと読みやすい化物譚。若い世代、もしくは「戯言~」のファンにはそれだけでも十分かもしれない。
しかしあなどるなかれ、その根っこは意外なほどに深い。

 

第1話で登場するツンデレ系(あるいはツンドラ系)少女戦場ヶ原ひたぎが怪異に取りつかれ理由。第2話の大きなリュックをしょった小学生八九時真宵(はちくじまよい)の行動に隠された真実、第3話のスーパースポーツ少女神原駿河の心の深遠。
どれもこれも一筋縄ではいかないのだ。

 

京極夏彦ほど深くはないのかもしれないが、その間口の広さは大きな共感を得るかもしれない。
中禅寺秋彦の憑き物落とし程に鋭くはないかもしれないが、その戯言の作り出す世界は驚くほどに豊か。
まさに新世代の妖怪物語の誕生と呼べるのではないだろうか。
現時点で西尾氏の代表作のひとつに押してもいいぐらいの、思いがけない傑作だった。


採点   4.5

(2007.1.29 ブログ再録)