『聚楽 太閤の錬金窟』(☆4.5) 著者:宇月原晴明

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秀吉の天下統一もなって数年。「殺生関白」秀次は、異端の伴天連ポステルと聚楽第に巨大な錬金窟を作りあげ、夜ごとの秘儀を繰り広げていた。京洛の地下に隠された謎をめぐって暗躍する家康・三成らの諸侯、蜂須賀党・服部党の乱破、イエズス会異端審問組織「主の鉄槌」。秀吉が頑なに守る秘密、そして秀次の企みとは?権力の野望に魅せられた男たちの狂気を描く、オカルト満艦飾の戦国絵巻。

yahoo紹介より

 

『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』『黎明に叛くもの』の間に挟まる作品。
前作『信長~』での異形なる信長公の世界観を引き継ぎつつ、溢れるイメージは留まるところを知らない。
そのあまりに濃厚ゆえに物語のバランスを大きく崩しながらも、その魅力はなお読者を引きつける。
『黎明に叛くもの』が整然としたif的ロジックの集約によって完成された小説ならば、こちらは混沌の海の上に広がる物語。
そしてそのカオスの海に漕ぎ出す船こそは「聚楽第」。
小説としての完成度は『黎明に叛くもの』が上だと思うが、その濃密たるカオスに惹かれる読者であれば無二の傑作と感じるのではないだろうか。

 

おそるべき想像力によって再現された伝説の建築物「聚楽第」。
その地下に広がる地獄絵図の如き錬金窟で繰り広げられる、聖なる主の再現。
フランスの英雄であり「オルレアンの乙女」と呼ばれたジャンヌ・ダルク、彼女のそばにあり「救国の英雄」と呼ばれながら、後の『青髭』のモデルともなる大量虐殺を行ったジル・ド・レイの世界を、戦国末期の日本にリンクさせるという荒唐無稽な荒業を披露しながら、なお歴史の真実と見間違う迫力を持っている。

 

「殺生関白」秀次、運命に翻弄された悲運の女性淀君、異端とされながらなお自ら信ずるカトリックの為錬金術の真髄を極めんとするポステル。
一方で信長、お市の方の幻影に囚われたがゆえにただ進むことしか出来ない太閤豊臣秀吉徳川家康
それぞれの物語がリンクするときに生み出される圧倒的な物語の沸点。
そして一挙に収束した後に残された虚無の世界の寒々しさ。

 

伝奇小説、歴史小説、SF小説。
そのすべての要素を含みながらも、なおどの範疇からもはみだしたジャンル分類不能(あるいは不必要)な世界観。
この作者にしか書けないのではないかと思わせる独特の才能は、天才作家であった故・山田風太郎を思わせる。
『黎明に叛くもの』、そして『安徳天皇漂海記』のようなある種小説的な小説も魅力なのだが、やはり物語たる物語を描いた作品を読んでみたい。

 

うーん、感想難しいぞこれ^^;;
でもとにかくすごい小説だと思います。


採点   4.5

(2007.1.27 ブログ再録)