『フラガール』 監督:李相日

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 炭坑の閉山で活気を失った町の再生を期して計画されたレジャー施設“常磐ハワイアンセンター”(現・スパリゾートハワイアンズ)誕生にまつわる感動秘話を映画化したハートフル・ストーリー。施設の目玉となるフラダンスを教えるため東京から呼び寄せられたダンス教師と地元の炭坑娘たちとの葛藤と心の成長を描く。主演は「子ぎつねヘレン」の松雪泰子、共演に蒼井優山崎静代。監督は「69 sixty nine」の李相日。3ヵ月の猛特訓を積んだという出演者たち自らが披露する迫真のフラダンス・シーンも見どころ。
 昭和40年、福島県いわき市の炭鉱町。時代は石炭から石油へと変わり、閉山が相次ぎ、町は先細りの一途をたどっていた。そこで、起死回生のプロジェクトとして豊富な温泉を利用したレジャー施設“常磐ハワイアンセンター”が計画された。そして、目玉となるフラダンスショーのダンサー募集が地元の少女たちに対して行われた。この町から抜け出すチャンスだと考えた早苗は紀美子を誘って説明会へと向かう。説明会では、セクシーな衣装で踊る姿に、大半の応募者が逃げ出し、残ったのは紀美子と早苗の他には初子と小百合のわずか4人だけだった。そんな中、元SKD(松竹歌劇団)のダンサー平山まどかがフラダンスの教師として東京から招かれる。しかし、とある事情で渋々やって来たまどかは、教える相手がズブの素人と分かり、完全にやる気を失ってしまう…。

監督:李相日   	
製作:李鳳宇 	河合洋  細野義朗 	
プロデュース:石原仁美 	
企画:石原仁美 	
脚本:李相日 	羽原大介 	
撮影:山本英夫 	
美術:種田陽平 	
編集:今井剛 	
音楽:ジェイク・シマブクロ 	
照明:小野晃 	
録音:白取貢 	
 
出演:
 	松雪泰子 	平山まどか
	豊川悦司 	谷川洋二朗
	蒼井優 	 谷川紀美子
	山崎静代 	熊野小百合
	池津祥子 	佐々木初子
	徳永えり 	木村早苗
	三宅弘城 	井狩光夫
	寺島進 	 石田
	志賀勝 	 熊野五郎
	高橋克実 	木村清二
	岸部一徳 	吉本紀夫
	富司純子 	谷川千代

 

実話を基にした物語、松雪泰子が演じた平山まどかさんは現在もダンスを教え続けているそうな。
ちなみに米アカデミー賞外国語映画賞の日本代表に選ばれたそうな。本選にノミネートされるといいですねえ。

 

ということで、非常に面白かったです。
炭鉱の閉鎖により経済の低迷に苦しむ炭鉱を舞台に一生懸命に生きようとする人達の物語。
内容的には「フル・モンティ」と「リトルダンサー」を足して2で割ったようなストーリーですが、実話を元に脚本の取材に2年を掛けたというだけあって、非常に丁寧な物語になってます。

 

はっきりいってしまえば予定調和の物語。意外性という点においてはまったくありません。こういう映画を見せるのは逆に結構難しいと思います。
そういった意味ではこれは予定調和の楽しさをきちんと伝えてくれてると思いますし、最後までほとんどダレる所がありません。
若干無駄な要素(寺島進の借金取りのくどさなど)や、カメラワークや場面転換の部分に粗さが感じられるものの、全体としては決してフラガールチームの物語ではなく炭鉱で生活する人との絡ませ方は、十分見ている人に伝わってくるんではないでしょうか。

 

またこの映画の最もいい部分は役者陣が総じて素晴らしかったことでしょう。
ある巨匠が、「監督の仕事の9割はキャスティングだ。それが上手くいけばいい映画になる」と言っていたのを思い出しました。まあ、これは極論だとは思いますがこの映画は演出の隙間みたいな部分を、役者陣が埋めてくれたと思いますね。

 

主役のダンスの先生を演じた松雪さんは、若干小芝居的なところはあるものの逆にそれが映画のいいエッセンスになってますし、3ヶ月掛けて取り組んだというダンスシーンはとてもダンス経験ゼロとは思えません。
またこれからの日本映画を代表する女優になるであろう蒼井優は、今回も圧巻の演技。ダンス経験者であり「花とアリス」でも素晴らしいダンスシーンを見せているだけに最後のソロダンス場面は安心して見ていられたし(惜しむらくはカメラワークがもう少し良ければ・・・)、オープニングで披露する福島弁のテンポの良さで観客を一気に映画に引き込んでくれます。台詞回しといい存在感といい、本当に末恐ろしいです。
「緋牡丹のお竜」を髣髴とさせる富司純子の背筋の伸びた演技は画面に緊張をもたらしますし、しずちゃんもあまり台詞が無いおかげなのか独特の存在感が良かったと思います。男性陣は総じて女優陣に押され気味でしたね。トヨエツが映画の中で言う台詞、「女は強い」という一言が妙にリアルに感じてしまいました(笑)。

 

でも今回最大の収穫といえるのは、蒼井優演じる紀美子の親友早苗を演じた徳永えりさんでしょう。
この人の演技を見るのは初めてでしたが、本当に素晴らしかった。炭鉱を飛び出して違う生き方をしてみたいという熱意、フラダンスに取り組む時の表情の豊かさ、そして父親の失業により夕張に引っ越すためダンスを諦める事になり、その夢を紀美子に託す場面は本当に胸に迫ってくるものがありました。

 

あまりにベタな展開が苦手な人もいるかもしれませんが、炭鉱で生きる人達一人一人の生きる為に一生懸命な姿はみんなに伝わるんじゃないかなあ。
ほんと、ぜひ色んな人に観て貰いたい映画ですね♪
 

(2006.10.6 ブログ再録)