『いとしのヒナゴン』(☆4.8) 著者:重松清

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合併で揺れる広島県の比奈町。山あいにある小さなこの町に、30年ぶりに「ヒナゴン」の目撃者が現れ、町中が浮足立った。パンチパーマに白のスーツで決める町長のイッちゃんは、町役場に「類人猿課」を設置。そこに雇用された主人公の信子が遭遇した比奈町の大騒動。

 

初の重松作品、その記念すべき一冊目は「いとしのヒナゴン」しかないでしょう!!
えっ、なぜヒナゴンだって?
そりゃやっぱり広島県人ですから!!この小説に登場(?)するヒナゴンのモデルは広島県比婆郡に出没したとされるヒバゴンなんですから!!

 

ヒバゴンについてはこちらのHPが詳しく紹介されているのでこちらを!!
  →http://homepage3.nifty.com/f-page/hiro/gon/

 

で本編に戻りますが内容としては、平成の大合併の影響に晒される比奈町を舞台にヒバゴン目撃情報と町長選、合併問題、恋愛劇に家族愛、エンタてんこ盛りって感じです。とにかく登場人物達が熱い!!
パンチパーマの町長いっちゃん、暴走族あがりのヤンキー風貌というのは漫画なんかでもよく見られる典型的キャラなんだけど真剣なバカっぷりがチャーミングだし、彼らを取り巻く幼馴染、緊張するとすぐ下痢になるドベさんや何事も要領はいいもののこらえ性のないナバスケ、町長派と反町長派の板ばさみに悩むカツさんなど、現実と理想に苦労しながらも、それぞれ何かに対して熱い心を持っている。まさに「意地の無い正論になんの意味があるんじゃ!!」という言葉が身にしみます。

 

それに対し、東京で挫折しかけ故郷の比奈町に戻ってきたノブ、今の比奈と小学校教師という仕事を愛するジュンペ、思い出に浸ることをよしとせず比奈の生き残りを賭け合併に意欲を燃やす西野。3人の若き幼馴染の人間模様は、これから町を支えていくにはどうすればいいのかと喧々諤々ぶつかりあいます。
彼らの言葉に時代の進歩に邁進する日本人にとって、故郷というのはどういう存在なのかというのを考えさせられてしまいます。
だれもがそれぞれ故郷を真剣に考えてる、それが伝わってくるだけに自分にとっても人事じゃない気がしてしまいました。

 

彼らがそれぞれにたどり着いた「ヒナゴン」という存在の意味。
どの意味が正解なのかなんて関係ない、たどり着くまでにどういう道を歩いていくのかが重要なんだと感じさせられる。
一級のエンターテイメントに収まらず、結果が重要視される今の社会においてもう一度自分の道を考えるのも必要なんじゃないの?
そんなメッセージが込められていると感じた。
冒頭から最後まで一気に読ませる、痛快な人間模様を是非堪能してもらいたい。

 

それにしても「類人猿課」が実際に存在していたとは(笑)。


採点   4.8

(2006.9.22 ブログ再録)