『ラッシュライフ』(☆3.8) 著者:伊坂幸太郎

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泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場―。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。

 

小説的な技巧という意味では、これがデビュー2作目と思えない完成度を持っていると思う。
錯綜する4つの物語と10以上の人生ですか、これらを時系列順に描くのではなく、あえてバラバラに描いていき、読者の緊張を最後まで引っ張り続ける技量は巧いし、最後の1ページを読み終わった時に物語のピースが埋まる感覚は非常に気持ちいい。
非常に計算しつくされた物語の構成は著者の非凡を感じさせてくれた。

 

また著者の洗練された言葉選びというのも心に残る。ひとつひとつの会話や言葉はライトな感覚の物が多いにも関わらず、気付くと心に染みる部分がどこかにある。
特に泥棒の黒澤の「人生のプロなどいない。人生は全員がアマチュアだ。初心者だ」という台詞は、書きたくても書けない粋な文章だと正直感心しきりだった。

 

ただ、どこまでこの本にのめりこめたかというと、前半にやや冗長なものを感じてしまい、本の世界に入るのに少々時間がかかったしまった。
その理由がなんだったのかと考えると、前編に渡る技巧の配列が、読ませるという部分以外のところで有機的に絡まっているかというところにおいては、まだまだ粗さを感じてしまった。
人生という意味で非常におもしろい素材を提示しているだけに、読み物としての技巧のおもしろさ、それぞれの物語がどんどんリンクしていく手際の面白さに加えてのプラスアルファがもっとなにか出来たのではないかというのを強く感じてしまったのが正直残念だと思う部分。
その部分でやや感情移入出来なかったぶん、やや展開の目まぐるしさに僕自身ややおいていかれてしまった。
そういった意味では「重力ピエロ」の突き抜けた爽快感や、「魔王」でみせたテーマ性の深さという部分にはやや劣ってしまう。

 

ただそうはいってもこれが2作目だという事を考えると、驚異的な作品であるのは間違いないし、これ以降の伊坂作品の加速度を十分に窺わせる作品だと思う。



採点   3.8

(2006.9.24 ブログ再録)