秋田児童殺害事件の報道に思うこと

(2006.6.11 ブログ再録)



最近のワイドショーで最も取り上げられている事件は、秋田小学生殺人でしょう。
1ヶ月前に亡くなった女の子の母親が逮捕されるとう話題性も手伝って、各ワイドショーではこぞってこの事件を検証しています。

 

しかしながらこれらの報道を見ていると、どうしても考えてしまう事あります。それは、

 

  「報道は、いつから断罪者になってしまったのか?」

 

以降はこの事件の報道で僕が感じた事ですが、本来被疑者の女性は犯人と確定しているわけではないですが、便宜上犯人として書かせていただく部分がありますのでご了承下さい。

 

今回の事件で特徴的だったのは、少年の死体発見直後から1ヶ月前の少女の死がクローズアップされ(これは被疑者の行動にも大きな要因があるわけですが)、さらに警察が任意同行を求めていない段階にも関わらず、少女の母親を容疑者扱いする報道が週刊誌を中心に連日報道されていた事。
おそらくは警察側からある程度情報のリークがあった上での事だとは思うが、記事によっては被害者と被疑者の家庭の内幕をさも真実であるかのように興味本位的に書かれたものがあり、果たしてここまで書く必要があるのかと思うほど。

 

これらの報道を見ながら、万が一この母親が犯人でなかったらどうするのだろうと我が家では語り合ってました。
かつて報道は「松本サリン事件」で被害者である河野さんを一時容疑者扱いし言われも無い中傷記事を書くという失態を犯している訳ですが、その際にえた教訓が今回の報道に反映されてるとはとても思えません。

 

また被疑者逮捕後には、母親の2面性を示す場面として取材を受ける彼女の絵が各テレビ局で報道されました。確かにそういう側面もあるかもしれませんが、それ以上に撮影当時公式的にはただの事件関係者であるだけの母親を多数で囲みコメントを要求する報道陣の方がよっぽど犯罪的に感じてしまいました。
報道は「事実を報道する義務」があるのは確かですし、「報道の自由」に守られるのは当然だと思います。ただそれはあくまで「個人のプライバシー」を尊重した上での事であると思いますし、まして容疑者でもない段階での個人に対する強要ともとれる取材方法は「職権の濫用」としか思えないです。

 

どの番組か忘れましたが、朝のワイドショーで容疑者が浮上してない段階であるコメンテーターが犯人の事を「モンスター」と連呼してました。これはコメンテーターの心情としての部分もあるので個人の意見として思うのはやぶさかではありませんが、報道という中で視聴者に向かって発せられるものとしてはかなり奇異に思えました。これは今回の報道、あるいは現在のワイドショーのかかえる問題の象徴ではないでしょうか。

 

現在のワイドショーは自分達の考えた最も視聴率が取れるであろうストーリーを事件に押し付けてるような気がします。
視聴者に事件性が伝わるようにという狙いで、現地レポーターが犯人に対して自分の感情を露わにする喋り方をしますが、時としてそれは悲惨な事件を起こした犯人に対する怒りではなく、自分達の筋書きを外れた発言をする犯人あるいは関係者の証言に対する理不尽な怒りに見える事があります。

 

また、こういった恣意的な報道は近隣住民に対する影響を軽んじている気がします。
本来人間の記憶はあやふやな部分が多々ある訳ですが、そのあやふやな部分が一方的な報道により「作られた記憶」となってさも真実かのように語られてしまう危険性があります。都市伝説の流布における現象と同様に、多数の報道によってさも自分が経験したかのような錯覚に陥り、日常的にはなんら普通の行為を「そういえばあの時~」という無意識な記憶操作によって間違った記憶として認識して場合があるのではないでしょうか。

 

さらにこの無意識の誤認識が、さも真実かのように報道される事によってまた多くの誤認識を生み、結局被疑者だけではなく時として被害者にもいわれのない傷を与えてしまうのはないでしょうか。ただでさえ、被疑者のプライバシーに関しての保護は認められても、被害者の対する保護に関して日本の社会はまだまだ未成熟なだけに、こういった問題は地域の閉鎖性や個人同士の繋がりの希薄さの要因になるうる可能性があるのではないでしょうか。誰もが事件の被害者になるのは嫌なわけですし、万が一当事者ではなくとも、例えば被疑者もしくは被害者とただ友人だっただけで報道によりプライバシーを犯される事を恐れて近所付き合いを無意識的に敬遠してしまうのではないでしょうか。

 

報道は筋書きの上に事件を重ねるのではなく、事件におけ事実を調査・報道し、その結果から事件を分析して同様の事件の再発に対して取り組んでいくべきだと思います。少なくとも現在の報道は、自ら描いた筋書きの上で事件を報道することにだけも終始し、個人が起こしうる事件に関する再発防止への考証がおざなりなってるのではないでしょうか。

 

そういう意味で、今回の事件に関する報道では、CX系列のワイドショー「特ダネ」のメインキャスターである小倉智昭氏が、「報道が住民の記憶に与える影響の危険性」について触れ、事件の検証をより慎重に行うべきではないかという発言をしたのが一番印象に残っています。