『奇想、天を動かす』(☆4.3) 著者:島田荘司

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浅草で浮浪者風の老人が、消費税12円を請求されたことに腹を立て、店の主婦をナイフで刺殺。だが老人は氏名すら名乗らず完全黙秘を続けている。警視庁捜査一課・吉敷竹史は、懸命な捜査の結果、ついに過去数十年に及ぶ巨大な犯罪の構図を突き止めた。壮大なトリックを駆使し、本格推理と社会派推理とを見事に融合させた傑作。

Amazon紹介より

 

島田荘司の理想とする創作の最も理想的な形であり、現在の作風に転換する分岐点ともいえる作品だと思います。
章の冒頭で紹介される不可思議な挿話の数々が現実世界で収束される、手段はなかなか魅力的。

事件の発端そのものは、導入されたばかりの消費税を巡る衝動的殺人と思われていたものが、実のその裏に日本史の暗部に隠された悲劇があるという、本格と社会派ミステリの融合ともいうべき作品ですが、ここで提示される昭和の歴史観はやや主観的だと思いますし、作者の思想によって偏って語られているという気もしますが、小説の組み立ての中の道具としては十分説得力あり。

死体の消失に隠された壮大なトリック、御手洗シリーズや「北の夕鶴」にも負けないぐらい派手なものですね。お馴染みの漫画でも、どう見てもここから持ってきただろ~、っていった感じのものが伝わってきます(笑)。
とにかく、現実的にはどうなんだろうと思いますが、小説の中ではああ、これは可能なのかな~って思えるって事は、筆力の部分で補われているんですかね。

ただ、事件の動機なんですけど・・・気持ちはわかるんですけど、でも同情できるかというと。犯人が生み出した幻想に人生を大きく狂わせた人がたくさんいる事を思うと、一概には納得できないかも。

この作品で、吉敷のキャラというものが形成されてきてますね。ちょっと類型的でわがままな気もしますが(笑)。

(2005.11.16 ブログ再録)