『北の夕鶴2/3の殺人』(☆3.5) 著者:島田荘司

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 その事件は一本の電話から始まった。一課の刑事部屋に詰めていた吉敷の元に、五年前に別れた妻の通子から突然の電話がかかってきたのである。声にはどこか不安な響きがあったが、はっきりしたことは何も話さないまま、今夜《夕鶴》に乗って北へ帰るとだけと言うと切れてしまった。 翌日、通子が乗った《夕鶴9号》のA寝台で、一人の女の死体が発見される・・・。衝撃を受ける吉敷。結婚生活が失敗に終わりさえしなければ彼女を守ってやれた筈だ――、彼の心には怒りと悔恨の念だけが募っていた。 いまさらのように自分の不甲斐なさを痛感した吉敷は、正月休みを利用し単独で事件の捜査に飛び出していく。しかしそんな彼を北の地で待っていたのは、予想だにしていなかった恐ろしい殺人事件と、許されざるたくらみだった。義経北行の伝説が残る釧路を舞台に、繰り広げられる過酷な追跡劇の行方は?

Amazon紹介より

 

壮大なる「通子」サーガ(笑)の最初を担う作品ですね。まさか吉敷さんの元奥さんにこんな過去があろうとは。

冒頭から、西村京太郎チックな駅のホームでのすれ違い、寝台列車の中で発見される女性の死体・・・完全にトラベル・ミステリーの王道かと思いきや、北海道に渡った吉敷を待ち受けてるのは、御手洗シリーズ顔負けの亡霊伝説と不可解な2重殺人事件。やっぱり島田さんは、ただじゃあ転びませんな。

北海道のマンションで発見された死体の謎は、もはや何故ここまでと言いたいレベル。というか、こんなトリックなんて普通思い浮かびませんよ(笑)。
思い浮かばないからこそ、吉敷さんも熱にケガにうなされないと事件が解けなかったんでしょう。常識にとらわれた頭ではどうしようもありません。

それにしても、通子さん不幸すぎますな。確かに多少自業自得な部分もなきにしもあらずですが、何もここまで卑屈にならなくてもって感じで。しかも、この作品以降明らかになる過去の出来事を考えると、こんな事なんて微々たるものだったと思えてしまいますからね。そりゃ、お参り祈願をしたくもなりますわ。

作品としては、2人のロマンスを描きつつも、きっちり本格に仕上げてくる島田氏の腕が光ります。確かに破天荒なトリックですが、現実味を感じてしまうあたりはさすがです。
吉敷派の僕としては、十分に堪能できました。

通子さんには、吉敷と御手洗の橋渡し役として、これからも頑張っていただきたい所ですね。

 

(2005.11.20 ブログ再録)