蛍 著者:麻耶雄嵩

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 大学のオカルトスポット探検サークルの六人は、京都府の山間部に佇む黒いレンガ屋敷「ファイアフライ館」へ、今年も肝試しに向かっていた。そこは十年前、作曲家でヴァイオリニストの加賀蛍司が演奏家六人を惨殺した現場だった。
 事件発生と同じ七月十五日から始まる四日間のサークル合宿。 昨年とちがうのは半年前、女子メンバーの一人が、未逮捕の殺人鬼“ジョニー”に無残にも殺され、その動揺をまだ引きずっていたことだった。 ふざけあう悪趣味な仲間たち。嵐の山荘で第一の殺人は呪われたように、すぐに起こった―。 大胆にして繊細。驚きに驚く、あざやかなトリック!本格ミステリNo.1の傑作『鴉』から7年。鬼才が放つ新たなる野望。
                              amazon紹介より
 

 粗筋は、かつて一人の天才音楽家が7人もの人間を惨殺した現場、という曰くつきの家を、ある大学の冒険(オカルト?)クラブが訪れ、そこで殺人事件が起こってしまう、ある種王道のストーリーです。
 わりあい複雑な装置立ての多い著者の作品の中では比較的シンプルな小説で、その分改めて作者の力量の高さを感じさせてくれます。ただし、がちがちの犯人当てというには、少し犯人はわかり安いかな。

 この小説のすごさは、著者が仕掛けたあるトリックにあります。
 デビュー作の『翼ある闇』以来、メルカトル鮎・木更津悠也といった探偵を生み出し驚天動地・空前絶後(この言葉に偽りなし)のトリックを駆使してきた著者ですが、今回のトリックはここ最近よく使われるモノです。
 しかも、犯行に直接結びつくかというとそうでもない。(関わってはいますが。)とりあえず僕は騙されました。最近の推理小説の帯のアオリによく見られる、ラスト数ページの衝撃という言葉を久々に堪能しました。
 発想をちょっと変えただけで、今まで見てきたと思っていた世界が逆転してしまう。正統派本格の構成なのに、そこにあるのは間違いなく麻耶雄嵩の世界!!

 でも、この小説の醍醐味を楽しむには、やっぱりある程度推理小説(特に新本格以降)を読んでないと駄目かもしれないのです。そこだけがちょっとね。