夜の蝉 著者:北村薫

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呼吸するように本を読む主人公の「私」を取り巻く女性たち―ふたりの友人、姉―を核に、ふと顔を覗かせた不可思議な事どもの内面にたゆたう論理性をすくいとって見せてくれる錦繍の三編。色あざやかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線が読後の爽快感を誘う。第四十四回日本推理作家協会賞を受賞し、覆面作家だった著者が素顔を公開するきっかけとなった第二作品集。

 

『空飛ぶ馬』に続く、円紫さんシリーズ第2段。設定も前作から1年経ち、“私”も大学2年生になってます。今回も3篇の短編から構成されていますが、前作軽く触れられた“私”の姉が全ての物語に登場し、印象深い役割を果たします。

 

~朧夜の底~

 前作にも登場し、ファンの間では1番人気でもあるヒロインの親友“正ちゃん”こと高岡正子のアルバイト先の本屋で、本を前後逆(背表紙が本棚の奥を向きタイトルが解らない状態)や、上下逆さまに置かれるという悪戯が発生する。主人公からその話を聞いた円紫師匠のだした解答とは・・・・。 この短編で、印象のみで語られていた姉が実像として我々の前に登場します。また正ちゃんと父親との関係も語られ、今回の短編集のテーマらしきものが浮かび上がってきます。 個人的には“私”の前に気になる男性が登場するのでちょっとドキドキ。

 

~6月の花嫁~

 冒頭で語られる落語の三題噺(提示されたテーマ3つを盛り込んで噺を作る事)のエピソードと、“私”とその親友江美ちゃん、江美ちゃんのサークルの先輩達3人の5人組が旅行で訪れた軽井沢の別荘で起こった不思議な消失事件の謎が有機的に絡み合い、素晴らしく素敵なお話になっています。 個人的には読後感も含めてシリーズ中一番好きな短編かもしれません。

 

~夜の蝉~

 前作の江美ちゃんの幸せぶりと対照的な姉の中に隠された妹への思いが明らかになる1篇。メインとなる謎(姉の出した手紙が届くはずの無い相手に届いてしまい、その結果結婚を前提に付き合っていた男性と別れてしまう。)よりも、事件解決後姉妹で出掛けた温泉宿での2人の会話の方が心に残ります。 人が死ななくても面白いミステリーを書かせたら、やっぱり上手いです。 ちなみにハードカバー版の解説は個人的に素晴しい出来ぐあいだと思います。 あわせてどうぞ。