『災厄の町』に続くライツヴィルシリーズ第2作にあたるこの作品では、現在進行形での殺人事件というものは起こりません。過去に起こったたった一つの殺人により狂ってしまった親子の為に、エラリィが事件に隠された本当の真相を探すといったものです。
本作の魅力は、かつて国名シリーズで見せた眩いばかりのロジックではなく、フォックス親子の絆の再生だと思います。エラリィシリーズには、息子エラリィとその父でありニューヨーク市警の警部であるリチャードの理想的な親子関係が存在します。それに較べるとフォックス親子の関係は決して一般的ではなく、むしろ悲劇的です。しかしそこには、父親の息子に向ける変わらぬ温かい眼差しという共通点が存在します。それはおそらくアメリカの理想の父親像であり、作者の理想なのではないでしょうか。
物語終盤まで、エラリィは事件に対する新たな糸口すら見つける事ができませんし、推理小説のいわゆる一般的な探偵の行動といったものをほとんど起こせません。ただただ過去の事件を再現するのみです。そこにはかつて国名シリーズでみせた探偵エラリィの面影はあまりに希薄です。その分フォックス親子の関係を見つめるエラリィの姿は、より人間らしく見えてきます。
そこには『災厄の町』以降の作者の探偵小説に対するアプローチの変化がより明確になってきた部分だと思います。 事件に隠された真相はあまりにも哀しいモノですが、それは終わりではなく本当の親子の再生に繋がるものであることを信じたいのは、僕だけでしょうか。
決して派手な作品ではありませんが、クイーンを語るときには決して外せない小説だと思います。