空飛ぶ馬 著者:北村薫

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「私たちの日常にひそむささいだけれど不可思議な謎のなかに、貴重な人生の輝きや生きてゆくことの哀しみが隠されていることを教えてくれる」と宮部みゆきが絶賛する通り、これは本格推理の面白さと小説の醍醐味とがきわめて幸福な結婚をして生まれ出た作品である。

 

 一昔前、ミステリーといえば殺人、根暗な動機、名探偵。それがいまや殺人の起こらない所謂『日常の謎』系ミステリーが結構主流のひとつを担うようになりました。 その流れを作った一人に間違いないのが北村薫である事に異論を唱える人は少ないでしょう。

 その記念すべきデビュー作がこの『空飛ぶ馬』。大学に入ったばかりのヒロイン“私”(シリーズは5作出版されてますが、いまだに名前が分かりません)が出会う数々の不思議な出来事を、落語家である春桜亭円紫師匠が解き明かすといった構成の短編集。 とにかく、小説全体から漂う暖かい感じというか、ヒロインと円紫師匠の会話の一つ一つが素晴らしく楽しい。

 とにかく嫌味じゃないというか、結構専門的な文学・古典落語の用語がポンポン飛び出すものの、決して難解じゃなく、読み終わった後にああ、落語聞いてみたいな、と思わせる感じがいい。 もちろん、中にはキレイ事的な事件だけではなく、人の心に棲む悪意を取り上げた物もありますが、それに衝撃を受けるヒロインをついつい応援したくなっちゃう。

 ホント、こういう話書かせるとうまいっす。“私”といい別シリーズのヒロイン“新妻千秋さん”といい、こんな女性と知り合いたい。。。