『グラスホッパー』(☆3.0) 著者:伊坂幸太郎

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復讐。功名心。過去の清算。それぞれの思いを抱え、男たちは走る。3人の思いが交錯したとき、運命は大きく動き始める…。クールでファニーな殺し屋たちが奏でる狂想曲。書き下ろし長編。 

 

とりあえず図書館にいったらたくさん並んでいたので、森博嗣祭(←開催されてたのか!?)の合間のプチ伊坂踊りということで。。。

 

ということで『グラスホッパー』。どういうお話だかもまったく知らない、ある意味予備知識無しで挑んだわけですが。。。
いや面白かったです、一気に読めました。ただどこか作品にのめり込めない自分がいる。

 

3人の男たちの視線で語られる物語の交錯の仕方。それぞれの語りべ達の描き分け。
ラストに向けての伏線の周到な張り巡らせ方。そして最後の一行の不条理感。
また作品があらわす社会観みたいなもののテーマ性も非常に重いし、作品としてのクオリティは高い。

 

ただどうにも登場人物に感情移入できなかった。
どうしてなのかと考えると、物語の起承転結はピタッと決まっているのに登場人物の転の部分に説得力が欠けているのだと思う。
この物語の中心にいるのは鯨だと思うし多くの読者にとって彼が一番印象に残ると思うのだが、彼の心情がどういった変化を辿ったかという部分が薄っぺらい。
一応のその鍵としてホームレスの田中がその役割を果たしているのだと思うが、彼の言葉になぜあれだけ心を揺さぶられたというのが伝わってこなかった。
だからこそ最後の場面がさっぱりよく分からなかった。
構造としては読者を登場人物に感情移入させてそこから読者が何を考えるのか、というのを発生させる物語と解釈しただけに、この部分でつたわらなかったのは僕個人の感想とてしてはやや致命的といえるのかもしれない。
逆にそこに説得力を感じた人であればもっと伝わってくるものがあるのかもしれないが。

 

ただ、これだけの重い作品を勢いを失わせず最後まで読ませるというのはさすがの手腕だと思うし、なかなかいないタイプの作家さんではあると思うし、この作品も決してレベルの低い作品ではない事だけは、もう一度言っておきたいと思う。


採点   3.0

(2006.9.10 ブログ再録)