『下山事件 最後の証言』(☆5.0) 著者:柴田哲孝

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「あの事件をやったのはね、もしかしたら、兄さんかもしれない…」祖父の二三回忌の席で、大叔母が呟いた一言がすべての発端だった。昭和二 四年(一九四九)七月五日、初代国鉄総裁の下山定則三越本店で失踪。翌六日未明、足立区五反野常磐線上で轢死体となって発見された。戦後史最大のミス テリー「下山事件」である。陸軍の特務機関員だった祖父は、戦中戦後、「亜細亜産業」に在籍していた。かねてからGHQのキャノン機関との関係が噂されて いた謎の組織である。祖父は何者だったのか。そして亜細亜産業とは。親族、さらに組織の総帥へのインタビューを通し、初めて明らかになる事件の真相。 


Amazon紹介より

 

第59回日本推理作家協会賞評論・その他の部門受賞作。

個人的な興味もあり、昔から「下山事件」に関する書籍を読みましたが、まさにその中でも決定版ともいえる内容に仕上がってると思います。

終戦直後の昭和24年、同年に連続して発生した「三鷹事件」「松川事件」と並び国鉄三大ミステリーと呼ばれ、その謎の深さは昭和史最大のミステリー「三億円事件」と並び称される「下山事件」。

発生当初から自殺説を主張する警視庁の捜査1課と、他殺説を唱える捜査2課・検察が対立、結局公式発表のないまま捜査が終息するなど、未だにその真相が分かっていません。

朝日新聞社記者矢田喜美雄の著作『謀殺 下山事件』をはじめ、作家松本清張が著作『日本の黒い霧』でその真相を究明するなど、事件を取り扱った数多くの中で、最も新しい作品なだけに、前出の書籍に比べ有利な点はあるものの、この本の最大の魅力は著者の祖父が「下山事件」の関係者であるという事。
その立場を利して集められた証言や関係者のインタビューによって構成された本作は、かつてないぐらい説得力に溢れています。
過去の著名人やジャーナリストが提唱した「事件の真相」についても丁寧に精査されており、これ1冊を読めば、「下山事件」において今までどのような事が語られてきたのかが十分に把握できると思います。

また冒頭で事件の流れに関しても丁寧な説明がなされており、「下山事件」を知らない読者にとっても十分に事件の内容を把握できるし、逆に一編の社会派ミステリ小説として読んでも十分に読み応えがあるんではないでしょか。

また著者の推理が辿り着いた黒幕の存在。あまりに有名な人物であるために、僕はかなり衝撃を受けました。しかも、それまでに積み立てられた推論が説得力に満ち溢れている為に、より終戦直後の日本が抱えていた闇の深さを痛感させられます。

こういった上質のノンフィクション作品を読ませると、「現実は小説より奇なり」という言葉が突き刺さってきます。
登場人物が膨大なせいか、メモを取りながら読んだ方がスムーズに読み通せるとは思いますが、それだけの価値があるし、普段ノンフィクションを読まない人にも読んでもらいたい本です。

 

(2006.5.24 ブログ再録)