『スマホを落としただけなのに』(☆3.7) 著者:志駕晃

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第15回『このミステリーがすごい! 』大賞・隠し玉作品は、二転三転する恐怖のサイバーサスペンスです! 

麻美の彼氏の富田がスマホを落としたことが、すべての始まりだった。
拾い主の男はスマホを返却するが、男の正体は狡猾なハッカー。
麻美を気に入った男は、麻美の人間関係を監視し始める。
セキュリティを丸裸にされた富田のスマホが、身近なSNSを介して麻美を陥れる狂気へと変わっていく。
いっぽう、神奈川の山中では身元不明の女性の死体が次々と発見され……。

Amazonより

 今のご時世、スマホSNSは世の中に浸透、ほとんどの人が一度は触れたことがあるはず。同時に、ネットセキュリティに関しても様々な事件が報じられてます。でも、それは他人事と思っていませんか?
 本作は今のSNS全盛の時代の象徴的ツールであるスマホを、主人公麻美の彼氏である富田が落としたところから始まります。偶然スマホを拾った男が、異常犯罪者であるハッカーだったことから麻美はとんでもない事件に巻き込まれていきます。

 実際スマホといわず、携帯もそうですが、一度は落とした事はありませんか?落としたことはなくても、忘れそうになったことはありませんか?私はあります、焦りますよね。自分の場合はたまたま普通に届けられてて何の被害もありませんでしたが、悪用されてたらって思うと怖いですよね。

 実際に麻美も彼が落としたスマホに入っていた彼女の画像をハッカーに見初められてしまったため、様々な手段を駆使して個人情報を調べ上げられます。さすがにセキュリティが色々言われる中で、麻美にしろ彼氏の富田にしろちょっと弛すぎとツッコミたくなりますが、でもほんとに自分が万全にセキュリティをしてるかなんてわからないですよね。

 実際、ハッカー・・・というよりストーカーの男は決してハッキングのスペシャリストではなく、最初は興味本位で始めた部分がどんどん知識が広がっていったタイプ。そんな男がツールを使うことによって、麻美やその周りの人物の情報を抜きまくります。その情報報酬の仕方も中々にリアリティに富んでいるので、実際にこっちも不安になっちゃいます。そう思わせる時点である意味成功なのかもしれません。

 物語はどんどん追い詰められていく麻美の視点、麻美を追い詰める変態ハッカーの視点、そして連続死体遺棄事件を追う警察の三人の視点で描かれます。
  審査員に指摘された通り、麻美や犯人の視点に較べると、警察視点のパートが犯人の猟奇性を際立たせるぐらいにしかなってないのはストーリーの緊迫感を出すという意味では欠点といえるのかもしれません。

 けれども、小説のテーマ的な事を考えると他のパートが十分なので、そこまで大きい問題とは思いません。むしろ複数パートの同時進行を読みにくくすること無く描いてるところの方が評価されるべきでしょうか。ただ、会話文のやや薄っぺらいところについては好みが分かれるかもしれません。この辺りはこれから克服される事を願います。

 ミステリとしてはある程度想像するところに落ち着く感はありますが、伏線や描写にも配慮してるのでそこまで結局それかよー、とは思いませんでした。
むしろ、最後に明らかになる事実についてはまったく想像してなかったけれど、思い返してみるとなるほどそこの描写にそういう意味もあったのね、と感心。
 ラストのある登場人物の選択については、ありえねー、と思いつつ現実と仮想の境界線が曖昧になってる今の時代、ある意味ありえる選択肢なのかも。

 全体として、文章の欠点だったり、詰めの甘さは感じるものの、スマホだったりSNSという今の時代のツールを専門的になり過ぎず、身近な恐怖として成立させていて楽しめました。
 とりあえず読み終わったら、自分のセキュリティの見直し、そしてストラップ付きのスマホケースを買いたくなるかもしれません。



採点  ☆3.7