『スマホを落としだけなのに 囚われの殺人鬼』(☆3.6) 著者:志駕 晃

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 神奈川県警生活安全サイバー犯罪対策課の桐野良一はあるPCから、死体で見つかった女の情報を探っていた。そのPCは、「丹沢山中連続殺人事件」の犯人のものだった。秘密を探るうち、犯人は桐野にある取引を持ちかけ―。その頃、巨額の仮想通貨流出事件が発生。セキュリティ会社で働く美乃里のもとに、ハッカーらしき男からコンタクトがあり…。情報化社会の恐怖を描くサイバー・サスペンス!

Amazonより

 映画化された『スマホを落としだけなのに』の続編。まさかあの小説が続編になるとは、と思いました。タイトルでもわかるように、今回は新たな主役としてサイバー犯罪担当の桐野が登場しつつも、実際には前作で逮捕された犯人が新たな事件では、操作側として重要な役割を果たします。
 お互いインターネットに精通しつつ、それでいて善悪表裏一体の桐野と前作の犯人氏の関係は、『羊たちの沈黙』のレクターとクラリスの関係を彷彿させますが、インスパイアされた部分があるのかもしれません。

 前作はインターネットセキュリティの脆弱さ、文字通り「スマホを落としだけなのに」一種のストーカー犯罪をテーマにした内容でしたが、今作は一斉を風靡している仮想通貨であったり、ダークウェブというアングラ的な内容、前作からより一層ネット世界に入り込んだ内容になっています。
 一見よりディープになってるかのようですが、基本的なところは分かりやすく触れてくれていますし、あくま物語の核はオーソドックスなミステリなので物語についていけないという事は無いかなと思います。むしろ文章的に前作に比べて明らかに上手くなっていて読みやすい印象です。

 正直新たな死体に関する部分であったり、桐野の彼女の扱い方などもう少し踏み込んでくれれば、というところはあったり、犯人の動機に関してやや取ってつけたようなところ(特に動機の部分)もあったりするのですが、一方でハッカーVSクラッカーの攻防だったり、続編を匂わせるラストなど印象に残る場面も多いですし、ミステリとしてはともかく小説としてのクオリティは作品ごとに上がっていると思います。

 それにしても前作のハッキングに関する部分も、実際に起こりそうな内容でなかなか興味深かったですが、今回のダークウェブや仮想通貨というのもけっして小説内の事だけではないですよね。実際にハッキングによる仮想通貨流出については現実に起きた事件を下敷きにしているように思えるし、ダークウェブについても所謂アングラサイト上で出会った赤の他人が他者をリアルに攻撃する時代ですし、けっして他人事ではないですよね。

 結局結論は、わからないことには手を出さないということなんでしょうね。

 

 
採点  ☆3.8